大学の講義を準備しながら思うことですが、分子生物学の進歩には凄まじいものを感じます。私は毎年同じ講義を繰り返したくないので、可能な限り、新しい話題をとり入れ、時には脱線したりしながら、自分の講義に対するモティベーションを保つようにしています。実際、論文レベルでは、教科書に掲載されていない内容がどんどん登場しますが、何を盛り込んだらよいか、いつも頭を悩まします。華々しく登場した話題もすぐに反論されて立ち消えになったりするので、話題は慎重に選ぶようにしています。講義で教える内容が毎年更新するこんなエキサイティングな学問分野は他になかなかないと思います。

続きを読む…

RNAに興味をもったきっかけはRNAワールド仮説に出会ったことである。以来,RNA機能の多様性を探り,複雑な遺伝子ネットワークのもとに構築されている生体システムにおいてRNAが機能分子としてどのように活躍しているか、少しでも多く知りたいと50-500 nt程度の大きさをもつ”structured ncRNA”を中心に研究を続けてきた。

続きを読む…

埋もれていた発見

RNAに関する幾多の発見を述べてきたあとで、―――RNAやDNAが、何時、誰によって発見されたのかを今になって述べるのは、いささか面映いが、この稿では大元に戻って、そのこと、つまりDNAの発見について紹介したい。実は、筆者も以下に述べる研究所を訪れる1980年代末まで知らなかったのだが、発見者が活躍した場所は、スイスの北西部の町バーゼルである。この町は、フランスとドイツの国境で、交通の要地であることから、昔から商業の町として栄えていた。その、人口30万ほどの町に、フリードリヒ・ミーシャ―研究所 (Friedirich Miesher Institute:以後FMIと略す) という小ぶりな研究所がある。このFMIは、歩道に面した小さな玄関から入るが、中は結構広い。食堂はノバルティス社と共用で大きく、献立も豊富だ。FMIの建物は、以前は、製薬会社チバ・ガイギーの研究所であったが、チバガイギーが同業のサンド社と合併してノバルティス社になった時から、FMIという名前になり、Publicにオープンな基礎研究所になった。研究所は、筆者が居た米国のロシュ分子生物学研究所や日本の三菱生命科学研究所や、あるいは、利根川進博士が居たロシュ・バーゼル免疫学研究所と同様、大企業に支援された基礎研究所だ。特徴は、RNAに研究の主力を置いていることである。現在の所長は女性で、スーザンGasser博士だ。私の昔からの友人ビテックFillipowicz博士がいる研究所でもあり、2度ほどこの研究所でセミナー講演をしたことがある。最初はキャップの話を、2度目にはウエルナー症候群の話をした。そのどちらかの折に、研究所の名前の由来などを聞いたのだが、答えは「この直ぐ近くを流れるライン川にはマスがたくさん上がってくるから、ミーシャ―はその精子に含まれる物質を調べたからだろう」ということだった。確かに、この町のライン川沿いには美味しいマス料理をだすレストランが幾つかある。

続きを読む…

ーーーこの発見は、M. Frommer (豪)、R. Shapiro (米)、H. Hayatsu (日)の3人によってなされたーーー

DNAのメチル化とエピジェネティックス

次世代DNAシークエンサーとコンピューターの進歩により、ゲノムDNAを読み取る技術が飛躍的に向上し、個人のゲノム情報が、安価にかつ短時間のうちに解明され、個の医療へ役立てる時代になった。親から授かった、先天的なゲノム配列の解読は大事だが、特定する遺伝子の働きが、どのように制御されているかを知るためには、遺伝子のスイッチ役であるエピゲノムの情報 (―――後天的な遺伝子制御を意味するーーー) がさらに必要である。エピゲノム制御は、DNAの特定な部位でのメチル化により行われる。実際、高等生物のDNAのなかには微量の5-メチルシトシン (m5C) ならびにその水和物5-ヒドロキシメチルシトシンが含まれていて、遺伝子の上流部位において遺伝子の発現を制御していることがわかっている。したがって、DNA配列中の何処にm5Cがあるかを知ることは、ゲノム医科学や医療診断の分野においても、非常に重要になってきた。

続きを読む…

学会からのお知らせ

The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2024 !!

Congratulations to Dr. Victor Ambros and Dr. Gary Ruvkun on the Award of the Nobel Prize in Physiology and Medicine, 2024.
“for the discovery of microRNA and its role in post-transcriptional gene regulation.”

https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2024/press-release/

2024年10月07日 (月)

古市-カリコ賞の創設と第1回古市-カリコ賞受賞候補者募集のお知らせ


日本RNA学会では、このたび「古市―カリコ賞」を創設いたしました。この賞の創設にあたっては、先日の東京年会の特別講演者であるKatalin Kariko博士から、先日惜しくも他界された本学会名誉会員の古市泰宏先生を偲ぶための賞の創設が提案され、そのために年会講演謝金を含む賞の創設準備費をご寄付いただきました。そこで、本学会では、このご提案をありがたく受け入れ、この賞を「古市―カリコ賞」と命名し、未来のRNA研究を力強く先導する若手・中堅研究者を対象に、受賞候補者を募集することにいたしました。会員の皆様からの数多くの応募をお待ちしております。

続きを読む…

2024年09月01日 (日)

第25回日本RNA学会年会 発表演題のアーカイブが公開されました

第25回日本RNA学会年会 発表演題のアーカイブが下記の日程で公開されています。

ぜひご覧ください。

・公開期間:2024年7月15日(月)〜2024年7月29日(月)

URLhttps://www.rnaj.org/members/annual-meeting-archive

本アーカイブは、日本RNA学会の会員(一般正会員と学生正会員、および賛助会員、名誉会員の方々)、並びに、第25回日本RNA学会年会に参加登録された方がご覧になれます。

2024年07月15日 (月)

会報最新号より

MicroRNA therapyへの期待

程 久美子   Kumiko Ui-Tei
1) 東京科学大学・総合研究院・特任教授
2) 東京大学・大学院理学系研究科・生物科学専攻・特任研究員
 
米マサチューセッツ大学のVictor Ambros博士と米ハーバード大学のGary Ruvkun博士は、線虫のmiRNA発見についての論文を1993年に発表し(1, 2)、それから約30年後の2024年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。miRNAは21-25塩基程度の一本鎖のノンコーディングRNAであり、部分的に相補的な塩基配列をもつmRNAにアンチセンス鎖として対合し、その翻訳を制御する(図1)。しかしながら、このような小さなRNAによる遺伝子発現の制御は、限定的な原理として捉えられ、miRNAに関する次の論文が発表されたのは、7年後の2000年であった(3)。それ以降は、生命科学におけるmiRNAの重要性は明確で、miRNAによる遺伝子制御はヒトを含む多細胞生物にとっても不可欠のメカニズムであることが明確となり、ヒトではすでに2,000種以上ものmiRNAが同定されている。

続きを読む…

2024年12月10日 (火)

microRNAのノーベル賞受賞に寄せて-- 植物のmiRNAの話

東京大学 

渡邊雄一郎

今回のVictor Ambros, Gary Ruvkun両氏のノーベル賞受賞の知らせを聞いて、2000年前後のことを思い出した。線虫でのlin-4に続くlet-7の報告から数年でマウス、ヒトにもmiRNAが存在し、その中には種の違いを超えてlet-7なども含まれることなどが報告された。次に何がくるかと思っていたら、私が扱っていた植物の世界にもmiRNAがあるということになった。植物で初めてのmiRNAと機能との関連が見つかったという報告は2003年9月Natureで発表された。そのmiRNAはmiRJAW (JAWは JAGGED AND WAVY(波打ったという意))いう名で報告された。掲載号の表紙には奇妙な葉の形態を持つシロイヌナズナの写真が登場した。なぜこんな形態になるのかはすぐには理解できなかったことを覚えている。現在このmiRNAはmiR319として登録されている。以後、にわかに植物分野でもmiRNA研究が賑やかになった。

続きを読む…

2024年12月06日 (金)

The complex life of RNA 参加報告

九州大学・野島研究室博士課程3年の中山千尋と申します。新生RNA解析を用いて、RNAポリメラーゼIIの転写終結制御をテーマに研究しております。この度、RNAJ Travel Fellowship Programに採択いただき、ドイツ・ハイデルベルグで開催されたEMBL Symposium・The complex life of RNAに参加いたしました。この度はその参加報告をさせていただきます。

続きを読む…

2024年12月03日 (火)

公募情報等

The Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research (FMI) Tenure track Group Leader position in MULTICELLULAR SYSTEMS

現在、Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research (FMI)でTenure track Group Leader positionを公募しています。
詳細は下記をご覧ください。
締め切りは2025年 2月23日です。

続きを読む…

2024年12月17日 (火)

熊本大学発生医学研究所 共同利用・共同研究の公募

国立大学法人熊本大学発生医学研究所は、これまで蓄積した研究成果、研究技術と解析技術、関連情報を開放し、共同利用・共同研究拠点として活動しています。この度、令和7年度において、本研究所の先進的な各種研究施設を活用した共同利用・共同研究の公募を行っております。詳しくは以下のURLを御覧ください。

・熊本大学発生医学研究所共同研究募集要項(共同研究支援)
https://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/kyodo2025kobo/

・熊本大学発生医学研究所共同研究募集要項(導入研究支援)
https://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/kyodo2025kobo/#1

・熊本大学発生医学研究所共同研究募集要項(国際共同研究・共同利用支援)
https://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/kyodo_international2025/

2024年12月05日 (木)

木村資生博士生誕100周年記念講演会

遺伝研が年に一度開催する公開講演会を、今年は木村資生(きむら もとお)博士の生誕100周年を記念した講演会としてオンラインで行います。木村博士は、遺伝研を代表する研究者。博士は「分子進化の中立説」を1968年に提唱し、進化生物学分野にセンセーションをおこしました。今につながる木村博士の業績と遺伝研の研究成果をお楽しみください。

■日時: 2024年11月16日(土)13:00-15:00
■会場: オンライン(Zoom)

続きを読む…

2024年10月15日 (火)

今後のイベント

賛助会員