2019年05月 第39号

ーーーこの発見は、M. Frommer (豪)、R. Shapiro (米)、H. Hayatsu (日)の3人によってなされたーーー

DNAのメチル化とエピジェネティックス

次世代DNAシークエンサーとコンピューターの進歩により、ゲノムDNAを読み取る技術が飛躍的に向上し、個人のゲノム情報が、安価にかつ短時間のうちに解明され、個の医療へ役立てる時代になった。親から授かった、先天的なゲノム配列の解読は大事だが、特定する遺伝子の働きが、どのように制御されているかを知るためには、遺伝子のスイッチ役であるエピゲノムの情報 (―――後天的な遺伝子制御を意味するーーー) がさらに必要である。エピゲノム制御は、DNAの特定な部位でのメチル化により行われる。実際、高等生物のDNAのなかには微量の5-メチルシトシン (m5C) ならびにその水和物5-ヒドロキシメチルシトシンが含まれていて、遺伝子の上流部位において遺伝子の発現を制御していることがわかっている。したがって、DNA配列中の何処にm5Cがあるかを知ることは、ゲノム医科学や医療診断の分野においても、非常に重要になってきた。

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埋もれていた発見

RNAに関する幾多の発見を述べてきたあとで、―――RNAやDNAが、何時、誰によって発見されたのかを今になって述べるのは、いささか面映いが、この稿では大元に戻って、そのこと、つまりDNAの発見について紹介したい。実は、筆者も以下に述べる研究所を訪れる1980年代末まで知らなかったのだが、発見者が活躍した場所は、スイスの北西部の町バーゼルである。この町は、フランスとドイツの国境で、交通の要地であることから、昔から商業の町として栄えていた。その、人口30万ほどの町に、フリードリヒ・ミーシャ―研究所 (Friedirich Miesher Institute:以後FMIと略す) という小ぶりな研究所がある。このFMIは、歩道に面した小さな玄関から入るが、中は結構広い。食堂はノバルティス社と共用で大きく、献立も豊富だ。FMIの建物は、以前は、製薬会社チバ・ガイギーの研究所であったが、チバガイギーが同業のサンド社と合併してノバルティス社になった時から、FMIという名前になり、Publicにオープンな基礎研究所になった。研究所は、筆者が居た米国のロシュ分子生物学研究所や日本の三菱生命科学研究所や、あるいは、利根川進博士が居たロシュ・バーゼル免疫学研究所と同様、大企業に支援された基礎研究所だ。特徴は、RNAに研究の主力を置いていることである。現在の所長は女性で、スーザンGasser博士だ。私の昔からの友人ビテックFillipowicz博士がいる研究所でもあり、2度ほどこの研究所でセミナー講演をしたことがある。最初はキャップの話を、2度目にはウエルナー症候群の話をした。そのどちらかの折に、研究所の名前の由来などを聞いたのだが、答えは「この直ぐ近くを流れるライン川にはマスがたくさん上がってくるから、ミーシャ―はその精子に含まれる物質を調べたからだろう」ということだった。確かに、この町のライン川沿いには美味しいマス料理をだすレストランが幾つかある。

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