2020年11月 第42号

皆様、いかがお過ごしでしょうか?

8月以降、一時は収束の兆しが見えたCOVID-19ですが、今月に入り、いよいよ第三波が到来してしまいました。大学も秋学期から対面式の実習や講義を増やしていた矢先に、出鼻を挫かれたような気がしています。皆さんもそれぞれの環境で大きな衝撃を受けておられることでしょう。年明けの大学入試も正常に行われるのか、研究室の活動もまたいつ自粛せざるを得ない状況に追い込まれるか、など心配はつきません。そんな中において、ファイザー/BioNTechとモデルナのmRNAワクチンの臨床試験の結果が良好であるというニュースは、人類に希望を与える材料ではありますが、まだまだ予断を許さない状況が続きます。ひとりひとりの努力で感染しないように、感染させないように注意しながら、日々の生活を過ごしていきましょう。

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2020年のノーベル化学賞は、「The development of a method for genome editing」の業績に対して、Emmanuelle CharpentierとJennifer A. Doudnaに与えられた。「CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集技術」は生命の設計図であるゲノム情報の改変を可能とし、生命科学の基礎研究から動植物の品種改良や遺伝子治療といった応用にいたるさまざまな分野において利用されている。CRISPR-Cas9は原核生物の免疫システムに関する基礎研究の中で発見されたRNA依存性DNA切断酵素であり、基礎研究が技術革新につながった好例といえる。さらに、世界中の研究者が、微生物学、生命情報科学、分子生物学、生化学、構造生物学、細胞生物学などさまざまな手法を駆使してCRISPRの機能の解明に挑み徐々に謎が解けていくプロセスはまさにサイエンスの醍醐味である。ここではCRISPRの発見からゲノム編集への応用までの研究の歴史を紹介したい。

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2020年のノーベル化学賞は欧米の2人の女性科学者に贈られた。その理由はRNA誘導型のヌクレアーゼを利用して、実用的なゲノム編集技術を開発したことである。本稿では、この技術に使われているCRISPRを発見した筆者が、30数年前の発見当時を顧みながら、現在までの遺伝子工学技術発展の実感を綴りたい。

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今年2020年のノーベル化学賞はCRISPR-Casシステムを用いたゲノム編集技術の開発でカリフォルニア大学バークレーのJennifer Doudna博士とマックスプランク ベルリンのEmmanuelle Charpentier博士が受賞されました。私はDoudna研究室に2007年から2年弱所属してポスドク研究したと言うことで、日本RNA学会編集幹事の甲斐田さんに何か会報に記事をとのお誘いを受けたので書いてみます。

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本年度よりRNA学会の評議員として学会運営に初めてかかわらせていただくことになりました京都大学の齊藤と申します。私は2010年に独立し、かれこれ10年が経とうとしています。これまで、生命の起源からiPS細胞分野まで、いろんな分野に身をおいてきましたが、自分がどのように研究テーマを選んできたかについて少し述べたいと思います。日々研究に励み、これから自身の研究室を立ち上げていく学生さんや若手研究者の方々の参考に少しでもなれば幸いです。

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運良く理研にPIポジションを得ることができ、帰国してから早いもので4年が経ちます。日々、自分はPIとして研究室でどう振る舞うべきか、と思案しますし、「さっきの言動は良くなかったかな」、と研究室の帰り道、内省します。改めて痛感させられるのは、これまで自分が学生/ポスドクの間に一緒に研究をさせてもらったボスたちがなんと人間として素晴らしい人々だったか、ということです。僕自身は失敗・反省の日々なのですが (ラボのメンバーのみなさんすみません、ご容赦ください、、、)、なんとか少しでもimproveしようともがくところです。学会やセミナーなどのmeeting (もちろんCOVID-19以前の世の中での話なのですが) では、establishされたPIの方々と話をするチャンスがあって、「新米PIになにかアドバイスください」とみなさんに一言もらっていました。こういった一言が自分にとって金言だったのは言うまでもないのですが、これから研究室を持ちたいあるいは今まさに持とう、と考えいらっしゃるRNA学会員のみなさまにも一助なろうかと思いますので、それらの中で印象に残っている言葉の端々をここでご紹介したいと思います。ご本人には全く了承をもらっていませんし、僕が拡大解釈・事実誤認をしている可能性も大いにありますので、そのあたりは話半分に読んで頂くのが良いと思います、、、

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東京大学大学院工学系研究科 化学生命工学専攻 鈴木研究室でポスドクをしております穐近慎一郎と申します。昨年度に日本RNA学会および東京大学から推薦をいただき、「第10回日本学術振興会育志賞」を受賞することが出来ました。また昨年東京で開催された第21回日本RNA学会年会にて青葉賞に選出して頂きました。研究を始めた学部4年生のころからご指導いただいた鈴木勉先生をはじめ、評議員の諸先生方、ご推薦いただきました先生方、庶務幹事の伊藤様、会計幹事の築地様に厚く御礼申し上げます。これらの受賞に関しまして、編集幹事の甲斐田先生より原稿の依頼をいただきましたので、拙文ながら寄稿させていただきます。

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この度、日本RNA学会からの推薦を受けて、令和2年度「科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞」を受賞することができました。受賞題目は「小分子非コードRNAによる遺伝子発現制御システムの研究」で、数千から数万という配列種の小分子RNAがゲノム中に多数存在する標的遺伝子を制御するメカニズムや、小分子RNAがエピジェネティック因子として働く新たなメカニズムに関する研究によるものです。本研究を進めていくうえで、塩見さんと美喜子さん、学生時代の恩師である金井さんと冨田勝さんをはじめとして、沢山の方々に多大なサポートを頂きました。この場をお借りして、みなさまにお礼を申し上げたいと思います。

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去年参加したRNA Society meeting (RNA 2019 meeting, Krakow, Poland) で面白い発表を見た。タコ (octopus) では例外的かつ異常とも思えるほどA-to-I RNA editingの頻度が高い (図1) [1]。「すごい!でもなんのため?」と衝撃を受けた。それ以来、タコに強い関心を持っている。そのうち、タコの研究をやりたい。編集者ADARをゲノム編集したタコを作製し、彼らの視線、表情 (ボディパターン、体色の変化) やヒトへの接し方を見てみたい。mRNAのMS解析をすれば、m6Aやm5C修飾もヤタラ出てくるかもしれない。それで、タコ関連の本を何冊か買った。しかし、読む時間がなかった。積読。いつか読もうと思い、果たせなかった。ところが、突然、COVID-19がやってきた。外出自粛 (日本人は、Jishukurin Aという脳に特異的に発現している短鎖ペプチドをコードする遺伝子のA-to-G変異のアリル頻度が異常に高く、それが日本人の権威に対する従順さにつながっている、との報告はまだない)、在宅勤務、オンライン会議、オンライン講義。突然、本を読む時間ができた。どうやらこのような状況を英語では“stolen time”と言うらしい。それで、タコに関する本や文献を幾つか読んでみた。

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COVID-19が猛威をふるったこの4ヶ月の間、私たちの生活は大きく様変わりしました。映像に映し出される世界各地の危機的な様子を見ながら、何度となく「こんなことが現実になるとは」とつぶやきました。こうした事態は、昔愛読した小松左京のSF小説『復活の日』の中でしか起こらないはずでした。そこに登場するMM88ウィルスは、イギリス陸軍が軍事目的に開発した新型ウィルスで、それを盗み出したスパイの飛行機がヨーロッパ山中に墜落し、雪解けとともにウィルスの蔓延が始まり、半年後には地球規模で人類は壊滅的な状況に陥るという設定でした。もちろん人造ウィルスや人類滅亡といった設定は、小説の中だけの話です。今回のCOVID-19、武漢で現れた奇妙なウィルス感染症は、私たちが注視している中、SF小説の中で起こっていたことが、そのまま現実の脅威へと変わっていきました。この広がり方がなんとも不気味で、日々確実に拡大を続け、それまで対岸の火事であったものが、気がつくと自分たちのすぐそばにまで刻々と迫ってきました。COVID-19は、人を選ばず全ての人に脅威を与え、受け手の健康状態、生活習慣、知識、深刻さ、そして運などの要因によって個人の運命が決定されていきました。こういう状態になって初めて、私たちの社会とは、無数の取捨選択の結果生じた微妙な平衡状態で、それがどれほど脆弱であるかを思い知らされました。進化の淘汰圧が、突然私たちの頭上に迫ってきたような初めて体験する緊迫感でした。

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筆者の専門分野は、DNAウイルスのmicroRNA及びRNA編集だが、在籍しているのが微生物学講座であるため、学部 (医学部) の授業では新型コロナウイルスについても教えている。そこで、新型コロナウイルスとインターフェロン (IFN) について、鈴木勉さんにメールをしたところ、エッセイの執筆を依頼された。日本RNA学会の会員は新型コロナウイルスやIFNについてあまりご存じない方が多いと思われるので、古市先生のエッセイのフォローアップのような形で、少し細かい解説を行ってみたい。

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