2017年09月 第36号

イギリスにいた頃に今でも忘れられない景色に出会ったことがある。ロンドンから西に電車で一二時間くらいのところにあるBathという街に週末に一人で出かけた時のことだ。Bathはローマ時代の公共浴場が重要遺産になっていることで知られる。しかし浴場は混んでいて長時間並んだ上に、入っても特段面白くなかった。Bathは小さい街で歩いても数時間あれば全部見て回れる。何となく歩いて丘の上にあるイギリス王室の別荘のような建物に辿り着き、そこからの勾配を利用したVictoria Parkを散策した。ブラスバンドが日曜日の演奏会をやっているのに少し足を止めた後、茂みを通り抜けると広大な芝生からBathの街が見下ろせる場所に出た。ただのだだっ広い芝生だ。両脇に小道があって気持ちよく坂を下ることができる。真ん中にベンチが置いてあってそこに座って休憩することもできる。私はそこに立ち尽くして恐らく一時間くらいその景色を眺めていたと思う。

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先日の新潟での日本RNA学会年会の特別講演で、古市泰宏先生が、「研究者には二つのタイプがある。それは研究テーマを変える人と変えない人」、とおっしゃっていたが、私は後者に当たるだろう。その実情は、取りたてて褒められるようなことではなく、次から次からへと面白い問題があり、単に研究テーマを変える暇がなかっただけである。年会の会場で、片岡直行さんと北畠真さんから、「スプライシング発見40周年に際し、会報にぜひ何か寄稿してください」、と依頼された。満足していただける文章が書けるか、あまり自信はない。しかし、ちょいと数えてみると、今年はスプライシング研究に関わってから35年にもなり、スプライシング研究の歴史と、ほぼ重なっているではないか。運良くアメリカでスプライシング研究の中心に長く身を置くことができたこともあり、研究の最前線を実体験できた。これを機会に自分の研究経歴を気軽に振り返ってみるのもいいかと思って、引き受けることにした。研究者をめざす若い人に何かを伝える〜といった上から目線でなく、論文を熟読しても決してわからない、研究現場の舞台裏を、まあ面白おかしく楽しんでもらえれば十分かと思う。

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沖縄で世界最高水準の研究をしよう

2017年4月より、沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University、以下OIST)・細胞シグナルユニット(山本雅教授)で研究員として研究に従事している栁谷朗子と申します。今回は沖縄での研究室紹介をさせて頂ける機会を与えて頂き、大変嬉しく思います。長年にわたるカナダ・モントリオールのマギル大学から移動し、寒冷なカナダとは全く気候の異なる温暖な沖縄でマウスモデルを使用した転写後調節の研究を楽しんでいます。

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RNAフロンティアミーティングは、RNA研究者の交流による新しい学問領域の開拓、および、将来のRNA研究を担う若い人材の育成を目的とした会です。若手研究者や大学院生を中心に口頭発表および討論の機会を設け、さらには研究者間の交流や親睦をはかることを理念としています。

  • 発表を希望される方には漏れなく発表していただきます。
  • 発表の予定はなくても勉強・交流を目的とされる方も歓迎します。

本年度は11/8(水)~11/10(金)に比叡山延暦寺、琵琶湖をはるかに望むいにしえの学問の中心地で開催いたします。ただいま、参加・演題登録を受け付けております。皆様の積極的なご参加を、心よりお待ちしております。

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京都大学 ウイルス・再生医科学研究所の谷口一郎と申します。RNAフロンティアミーティング2017の世話人を同研究所の三野享史助教と務めさせていただいております。この場をお借りしてRNAフロンティアミーティング2017の告知をさせていただきます。

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 松山城のお堀の周りを早朝にランニングしていると、眠っている白鳥の姿を見ることができます。「へー、白鳥ってこんな寝方をするんだ」人は、知っているようで知らないことがたくさんあるということに、改めて気づかされます。私が初めてRNA学会に参加したのは2007年、名古屋国際会議場「白鳥ホール」。今年の富山開催で、RNA学会10年目。まだまだRNAについて知らないことだらけです。申し遅れましたが、愛媛大学大学院・理工学研究科の冨川千恵と申します。以降、駄文が続きますが、お許しください。 

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はじめに

斎藤和紀と申します。 2015 年 5 月より、アメリカ合衆国のボルチモアにあるジョンズ・ホプキンズ大学のレイチェル・グリーン教授の研究室で細菌の翻訳機構の研究をしています。大学院では東京大学医科学研究所の中村義一教授の研究室に所属し、伊藤耕一先生の指導のもとで真核生物の翻訳を研究していました。伊藤耕一先生の東京大学新領域創成科学研究科教授への就任にもお供させていただき、長いことお世話になっていました。留学前から全くメジャーではなく、留学してからも注目されるような論文がでていない状況で、なぜ私に白羽の矢が立ったのか不思議です。もっぱら伊藤教授やグリーン教授のネームバリューだと思っています。グリーン研に来る前には、私も多くの体験談を読んで参考にさせていただきました。色々な方にこの寄稿を楽しんでいただければと思っていますが、特にこれから留学することを考えている方の参考になればと思っています。

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2016年3月に大阪大学大学院医学系研究科の河原行郎先生のラボで学位を取得し、現在は京都大学iPS細胞研究所の齊藤博英先生の元でポスドクをしております余越萌と申します。2016年に日本RNA学会から推薦をいただき、「第6回日本学術振興会育志賞」を受賞することができました。この受賞に関しまして、編集幹事の北畠先生より原稿の依頼をいただきましたので、大分年月が経っており恐縮ですが、拙文ながら寄稿させていただきます。

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この4月に慶應義塾大学塩見研究室から情報・システム研究機構国立遺伝学研究所(以後、遺伝研)に異動しラボを持つことになりました。この地でラボを立ち上げて何事かを成し遂げねばと決意しているわけですが、何事かを為すには、孫子の教えでは「天の時」「地の利」「人の和」が必須だという言葉がありますので、この3つの観点から独立までの活動と独立後のラボの紹介をしていきたいと思います。

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ベンチャーからノーベル賞

PCR(Polymerase Chain Reaction)は、微量のRNAやDNAを増幅する技術であり、いまや遺伝子研究に無くてはならない技術だ。世界中の大学や研究所で使われ、産業面での応用も、医学、薬学、医療診断、考古学、犯罪捜査など途方もなく広く役に立っている。この技術は火葬の後の骨にのこる超微量のDNAからも、RNA やDNA配列を何億倍にも増幅して個人を特定できるほどにも鋭敏なので、世界中の大学のバイオ研究室や診断会社で使われていて、機器・試薬・消耗品を加算すれば、累積数兆円という巨額の経済効果をあげていると想定できる(図1)。

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タンパク合成へ、mRNAの読み枠と開始はどうして決まるのかの謎

タンパク合成の開始に際して、メッセンジャーRNA(mRNA)がリボソームと結合するためにはキャップ構造が必要であることはわかった(第5話)。そして、その結合に際しては、キャップ結合タンパク(eIF4E)がmRNAをリボソームに結合させるために必要であることもわかった(第6話)。しかしながら、そのあとがハッキリしない。mRNAの5′末端に結合したリボソームは、どの様にして、タンパク質を作る最初のシグナルであるAUGコドンへ正しく辿り着くのであろうか? これが謎だった。

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2017年度の日本RNA学会年会(第19回:会期7月19日〜21日)は、富山市で開催された。

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