2021年06月 第43号

皆様、いかがお過ごしでしょうか?

COVID-19の感染が拡大して一年以上が経ちました。すっかり、オンラインでの生活に慣れてしまい、昼間は会議や講義、夜は海外のシンポジウムに参加したりと、一日中PCの前に座っていることも珍しくなくなりました。会議中にコーヒーを飲む回数も増えて、先週は、ついうっかり、コーヒーをPCにぶちまけてしまいました。いつかはやるだろう、とは思ってましたが、、、ということで、この巻頭言は新しいPCのセットアップがようやく終わってから書いています。締め切りを大幅に過ぎてしまい、編集幹事の甲斐田さんには本当にご迷惑をおかけしてます。

続きを読む…

ワクチンは、生体が持つ免疫力を特定の標的に向けて誘導する素晴らしい医薬品である。ウイルスや細菌やカビなどの外来異生物 (抗原) が体内に侵入してくる時、我々の身体は、その表面タンパク質の特徴的なアミノ酸配列に対して結合する抗体を作り、継続した侵入を許さない。この原理を利用して、これまでにいろんなタイプのワクチンがつくられてきた。それらは、いろいろ工夫と経験を凝らして、多種にわたる。筆者にとって印象的なワクチンは「丸ごと」の抗原を使うポリオワクチンである。米国ソーク博士が開発したソークワクチンはホルマリンで不活化したウイルス懸濁液を筋肉注射する。そのあとで、セービン博士らが開発したのは「丸ごとウイルス」であって、生きているウイルスを経口投与して、腸内でゆるやかにウイルスを増殖させるようになっていた。砂糖で甘みがつけられていて、セービンワクチンは子供たちには受け入れられやすいワクチンであった。このセービンワクチンは、数億人分がーーーポリオのパンデミックに備えて、米国内に備蓄してあるそうである。

続きを読む…

2020年の12月にUniversity of Floridaにて研究室を開設させていただくに至りました藤井といいます。今回は甲斐田さんに留学とJob searchについての寄稿をお声がけ頂き、会報に載せて頂きました。甲斐田さんとは2009年にWisconsinで開かれたRNA学会に参加した際に知り合いました。その際に「留学どうですか?」と質問したところ「すっげぇ楽しい」と答えられたのが非常に印象に残っています。実際に初めてのRNA国際学会はとても楽しく、世界ではこんなにダイナミックに色々な研究が行われているのだと非常に感動したのを覚えています。今思えばそこから海外を意識し始めたように思います。ぜひ博士課程の学生さんは国外で行われる国際学会に一度は参加することを強くお勧めします。

続きを読む…

老人が日向に出したロッキングチェアに揺られている。彼は、かつて、Dr. Qと呼ばれていた。といっても、某国諜報部の秘密兵器の開発技師だったのではない。単なるRNA生物学の研究者だった。いくつかの学会に所属していたが、どの学会でも疎まれもし、ありがたがられもする不思議な立ち位置の男だった。とにかく、彼は、学会の年会に参加するのが好きだった。年会に参加して、自分の興味のあるセッションには、自身のメインの研究分野であるかどうかにかかわらず顔を出した。元からRNA研究者だった訳ではなく、大学院を出た後、アメリカでのポスドク生活を経て、帰国して某大学の助手を務める間は、タンパク質の細胞内局在について、膜透過から小胞輸送まであれこれやっていたらしい。運の良い男で、大学院で直接研究指導をしてくれた研究者とポスドク時代のボスが後にノーベル賞をそれぞれ受賞し、自分でもらったわけでもないのにノーベル賞メダルに触れる幸運に浴している。そんな研究経歴の中で、まだタンパク質の膜透過で有名な研究室で助手をしている間に、日本RNA学会の創設の場にも居たというから不思議な男である。その後、別の大学のミトコンドリア研究で有名なラボの准教授になって自分のテーマを動かせるようになった時に、tRNAの動態で多少面白いことを見つけたらしく、いつのまにか日本のtRNA研究の分野にちゃっかり居座るようになっていた。そんな経歴が、彼をして学会のいろいろなセッションに顔を出さしめたのだろう。

続きを読む…

今年、国際RNA SocietyのLifetime Achievement in Science AwardはMelissa J. Mooreに送られることになった(https://www.rnasociety.org/2021-rna-society-lifetime-achievement-in-science-award)。スプライソソームの分子メカニズムや構造の解析、Exon Junction Complex (EJC)の発見、RNA輸送や品質管理の研究など、RNAの基礎研究分野における彼女の多大な貢献は誰しもが知ることであるが、最近、Melissa Mooreの名前をことさら有名にしたのは、Pfizer社と並んでCOVID-19のmRNAワクチンを製造するModerna社のChief Scientific Officer (CSO) としての役割ではないだろうか。

続きを読む…

3月に新型コロナウイルスに関するエッセイ第25話を配信した折、「感染を避けながら、経済と医療体制をキープし、重症化患者数を少なく抑えながら,ワクチンができるのを待つしかない」と書いた。それから9か月、ようやく、そのワクチンができたようである。ワクチンにはいろんなタイプのものがあるが、この項で紹介するのは、これまでになかったタイプのワクチンで、メッセンジャーRNAワクチン (mRNAワクチン) という。私もそうだが、RNA研究者の読者には、力強く、響くワクチンではなかろうか。厚労省では、米国のFDAが最近承認したファイザー社とモデルナ社の「mRNAワクチン」数千万人分の購入を予約したとのことであるので、明春からは投与を受けることができるようであり、大いに期待している。老生はこのほど、ついに80歳の大台に達したので、医療現場の医師・看護士の皆さんに続き、高齢者の優先的待遇で、投与してもらえそうなので、楽しみにしている。

続きを読む…

最近、ニュースなどで新型コロナウイルスのワクチンとして、mRNAワクチンという言葉をよく目にする。このワクチンについて、最近何人かの医療関係者から質問をいただいた。RNA 学会でも多くの方が、このワクチンに興味と不安を持っていると思う。そこでワクチンの解説について鈴木さんと甲斐田さんに連絡をとったところ、了承を得ることができた。今回の話は偶然にも古市先生のエッセイと一部重複しているが、それぞれ異なる視点からのものであるので、2つの話を読んで総合的にmRNAワクチンを理解していただければと思う。

続きを読む…

東日本大震災直前に仙台に移動した際に、業者の方から「大きな地震が近いうちに来るので、機器は固定した方がいいですよ」とアドバイスされた。当時、地震が来るということを実感できず、全機器を固定するには至らなかった。その結果、強烈な揺れにより、機器が転倒・破損し、居室の机の下に避難する事態となった。来るべき危機を想定して普段から周到に準備しておくことは、最も有効な対応策であることは自明である。あと数か月で東日本大震災から10年目の節目となる。あの日をもう一度思い出し、日常に流され後回しになりがちな災害対策を、今一度検討する機会としたい。

続きを読む…