2020年11月 第42号

去年参加したRNA Society meeting (RNA 2019 meeting, Krakow, Poland) で面白い発表を見た。タコ (octopus) では例外的かつ異常とも思えるほどA-to-I RNA editingの頻度が高い (図1) [1]。「すごい!でもなんのため?」と衝撃を受けた。それ以来、タコに強い関心を持っている。そのうち、タコの研究をやりたい。編集者ADARをゲノム編集したタコを作製し、彼らの視線、表情 (ボディパターン、体色の変化) やヒトへの接し方を見てみたい。mRNAのMS解析をすれば、m6Aやm5C修飾もヤタラ出てくるかもしれない。それで、タコ関連の本を何冊か買った。しかし、読む時間がなかった。積読。いつか読もうと思い、果たせなかった。ところが、突然、COVID-19がやってきた。外出自粛 (日本人は、Jishukurin Aという脳に特異的に発現している短鎖ペプチドをコードする遺伝子のA-to-G変異のアリル頻度が異常に高く、それが日本人の権威に対する従順さにつながっている、との報告はまだない)、在宅勤務、オンライン会議、オンライン講義。突然、本を読む時間ができた。どうやらこのような状況を英語では“stolen time”と言うらしい。それで、タコに関する本や文献を幾つか読んでみた。

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COVID-19が猛威をふるったこの4ヶ月の間、私たちの生活は大きく様変わりしました。映像に映し出される世界各地の危機的な様子を見ながら、何度となく「こんなことが現実になるとは」とつぶやきました。こうした事態は、昔愛読した小松左京のSF小説『復活の日』の中でしか起こらないはずでした。そこに登場するMM88ウィルスは、イギリス陸軍が軍事目的に開発した新型ウィルスで、それを盗み出したスパイの飛行機がヨーロッパ山中に墜落し、雪解けとともにウィルスの蔓延が始まり、半年後には地球規模で人類は壊滅的な状況に陥るという設定でした。もちろん人造ウィルスや人類滅亡といった設定は、小説の中だけの話です。今回のCOVID-19、武漢で現れた奇妙なウィルス感染症は、私たちが注視している中、SF小説の中で起こっていたことが、そのまま現実の脅威へと変わっていきました。この広がり方がなんとも不気味で、日々確実に拡大を続け、それまで対岸の火事であったものが、気がつくと自分たちのすぐそばにまで刻々と迫ってきました。COVID-19は、人を選ばず全ての人に脅威を与え、受け手の健康状態、生活習慣、知識、深刻さ、そして運などの要因によって個人の運命が決定されていきました。こういう状態になって初めて、私たちの社会とは、無数の取捨選択の結果生じた微妙な平衡状態で、それがどれほど脆弱であるかを思い知らされました。進化の淘汰圧が、突然私たちの頭上に迫ってきたような初めて体験する緊迫感でした。

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筆者の専門分野は、DNAウイルスのmicroRNA及びRNA編集だが、在籍しているのが微生物学講座であるため、学部 (医学部) の授業では新型コロナウイルスについても教えている。そこで、新型コロナウイルスとインターフェロン (IFN) について、鈴木勉さんにメールをしたところ、エッセイの執筆を依頼された。日本RNA学会の会員は新型コロナウイルスやIFNについてあまりご存じない方が多いと思われるので、古市先生のエッセイのフォローアップのような形で、少し細かい解説を行ってみたい。

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