1999年(平成11年)6月

1970年前半に始まった遺伝子工学の画期的な手法は、1970代後半には真核生物の遺伝子やRNAの研究にも新たな発展を促し、イントロンとエクソンからなる分断遺伝子の発見やスプライシングという新しい概念が次々と生み出される中で、1980年代前半には触媒機能を持つRNA(リボザイム)の発見を呼び起こしました。以後続々とRNAの多彩で多様な新しい機能が発見されるに及んで、1970年代半ばまでは遺伝情報の伝達と発現過程における仲介者としての役割しかないと考えられていたRNAに対する固定観念が一新され、RNAの研究に大きなパラダイムシフトがもたらされました。最近のRNA研究は、転写、プロセシング、翻訳過程、輸送などの現象に関して細胞分子生物学的な分野でも大きく進展すると共に、発生、分化、神経系、病態など生体の高次複合形質の発現・制御に関する分野へも広がりを見せており、今やRNAの研究を避けて生命現象の研究を行うことは不可能といっても過言ではない時代になってきました。

わが国におけるRNA研究のレベルは従来より非常に高く、国際的に評価される優れた研究成果を量産し、生命科学の発展の歴史に大きく貢献してきました。この伝統を支える現在の研究体制としては、10年前より文部省科学研究費補助金によるRNAを直接の研究対象とするグループ研究が、重点領域研究、特定領域と呼称を変えながらも継続して行われており、重要な研究成果を生み出すとともに国内の若手研究者の育成にも大きく貢献しています。また3年前より現在行われている特定領域研究「RNA動的機能の分子基盤」と並行して、大学の若手教官が発起人となり「RNA若手研究者の会」が組織され、活発な情報交換の場として、RNAに関する研究領域の拡大と若手研究者の活性化に役立っています。

一方、国際的には、近年のRNA研究に携わる研究者人口の急激な増加が誘因となって、5年前より米国を中心としてRNA Societyが組織され、「RNA」という月刊専門誌を刊行するとともに、毎年千人以上の参加者のある国際的なRNA Meetingを主催し、世界的なRNA研究の大きな潮流を生み出しています。

このような国内外の状況から、わが国においてもRNA研究に関する総合的な統一組織を構築することが、来るべき21世紀の生命科学の発展のために必要であり、急務であるとの認識が関係者の間でもたれるようになり、この機に国内のRNAを中心とした生命科学の研究者に呼びかけ、日本RNA学会を設立しようとする気運が盛り上がってきました。この学会は、RNAの発現、機能、構造並びにRNA結合タンパク質等のRNAに関連する生体分子を研究の対象とする、基礎生物学、細胞分子生物学、生化学、医学、農学、薬学、生物工学など生命科学に関する基礎から応用までの広範な学問領域の研究者により組織されることを想定しています。その任務は、RNAに関する研究交流、研究発表、研究情報の交換の場の提供を通じて、わが国のRNA研究の更なる振興を計るとともに若手研究者の育成を行う事にあります。また上記の状況を踏まえつつ、広範な分野を横断する研究者の交流と異分野間の研究の融合を促進することによって、既存の欧米の「RNA Society」を凌駕するような新しい形の組織作りを目指し、「RNA研究に関する新しい学問領域の創成」をその最終目標に掲げたいと思います。

このような趣旨にご賛同いただき、設立総会に参加され、日本RNA学会に入会いただきますようお願いいたします。