株式会社イクスフォレストセラピューティクス研究員の壇辻さやかと申します。今回ご支援いただき、国際学会に参加しポスター発表をする貴重な機会を得ることができました。大変感謝しております。学会の様子やシンガポールでの滞在について報告致します。
今回参加したAnnual meeting of the RNA Society はRNA研究分野で最大規模の国際学会で、約1週間に渡って幅広いトピックの研究発表やセミナーが行われます。2016年に京都で開催された時にも参加したのですが、同時並行で複数の会場で行われる口頭発表と大量のポスターに圧倒されたのを覚えています。
異なるRNA研究分野を包括したこの学会は、私にとって特に魅力的でした。私は現在株式会社イクスフォレストセラピューティクスでRNAを標的とした創薬に関わる研究をしているのですが、昨年まで京都大学ウイルス再生医科学研究所でもRNA核外輸送に関わる研究を行なっていました(今回の学会ではその所属で今年1月にNucleic Acid Researchに掲載された研究内容の発表を行いました)。さらに以前はRNA局在化に関する研究をしていました。今回の学会では異なる分野のセッションで今までの研究に関連する刺激的なトピックに出会うことができました。
今年の会場はシンガポールの街の中心部にあるSuntec Singapore Convention & Exhibition Centreでした。大きなショッピングモールと一体化した建物になっており、京都ではなかなか味わうことのない大都会の雰囲気に、学会が始まる前から胸が高鳴りました。
学会1日目
開会の挨拶とkey note lecturesの後、Gardens by the Bayで夕食がありました。会場は巨大なドーム型の屋内庭園に隣接していて、食事後に庭園を散策できました。また、会場近くのスーパーツリーの広場ではオペラ音楽を流しながらのライトショーが行われており、シンガポールの夜景を背景に、大都市に来た!という気分の高揚を味わいました。
学会2日目
この日は朝7時45分にNanoporeのセミナーで始まり、ポスター発表が夜11時まで続くといったかなりのハードスケジュールでした。私が興味を持っていた内容もこの日に集中しており、最後は正直ふらふらだったのですが、濃密な内容で満足でした。
私自身のポスター発表もこの日にありました。90分間絶えず誰かが私のポスターを訪れてくれて、様々なディスカッションをすることができました。今までなかなか近い研究分野の人に出会うことはなかったのですが、今回の600枚に及ぶポスター発表の中には密接に関連する分野もあり、その発表者と意見や知識を交換することができたのは貴重な経験でした。
学会3日目 - 5日目
この間に、思いがけない事件が起こりました。3日目に強い雨が降り、傘をさしていてもかなり濡れたまま、冷房がガンガンにかかった会場で学会に参加したのですが、4日目の朝起きると喉が痛く鼻水が止まらなくなっていました。暑いシンガポールでまさか風邪をひくとは思わず、油断していました。興味のあるセッションとポスター発表には参加したものの、自由時間や最終日のパーティーの間は殆どホテルで寝て過ごすことになり、残念な思いでいっぱいでした。それでも、面白い研究発表を聴いている間は鼻水が止まるということを学んだのは新たな発見でした。幸運なことに今回の学会ではDigital Contents Libraryを用意してくれており、後日口頭発表を視聴したり、ポスターのPDFを見たりすることができました。同時並行で異なるセッションが行われる学会形式のため、風邪を引かずとも参加できなかった発表を後から視聴することができるのはかなり有難いと思います。
おまけ:pre-学会1日目
午後の学会開始前に、中心部からバスで1時間ほど北に移動して、マクリッチ貯水池公園という熱帯雨林にハイキングをしに行きました。あまりヒトはおらず(無料で行けます)、イグアナやサルが目の前を横切って行き、最終ポイントではツリートップに渡された吊り橋を渡るという超絶にアドレナリンが放出される体験をすることができました。学会後半に体調を崩したことを考えると、初日に行っておいて良かったと思います。かなりおすすめなので、是非行ってみてください。
注目ポイント①Nanopore Sequencing Technologies
私はIlluminaのシーケンスしか扱った経験がなく、近年注目の集まっているNanoporeのシーケンシング技術に興味がありました。Nanoporeのセミナーでは、シーケンスメカニズムと最新のキットの改善点について説明があり、その内容を念頭に置いてNanoporeシーケンスを利用した様々な研究の発表を聴講しました。Illuminaよりはるかに長いリード長が読めること、様々な修飾の検出が可能であること(構造プロファイリングにも利用可能)、ダイレクトシーケンスで手順が短縮されることといった利点がある一方、修飾部がポアにつかえたり、識別バーコードが使用しにくかったりといった欠点があることも学ぶことができました。ポスター発表では特に詳しく個別のケースについて具体的に利点と欠点を知ることができ、とても参考になりました。
注目ポイント②Ribozyme & Riboswitch
まだ機能未知のリボスイッチ・リボザイムが数多くある背景で、これらを利用した新しい技術、特にLindleyグループの発表していたRNAスティッチング技術に興味を惹かれました。グループでは3‘切断リボザイムと5’切断リボザイムを組み合わせて、スカーレスの長いRNAを発現させる技術を確立させており、パッケージングのサイズ問題を解消できるということでAAV遺伝子療法への応用までほぼ実現していました。他にも、リボスイッチによる翻訳調節など異なる遺伝子発現段階での機能について様々なグループが発表しており、今後も注目して行きたいトピックだと思っています。
注目ポイント③40S hnRNP
私の発表内容にも関連して、40S複合体や構成要素に関する研究に注目していました。40S hnRNP粒子は格内に豊富に存在し、殆どの新生mRNAの機能発現に関与する複合体として大昔から現在まで研究されてきています。今回の学会でもいくつかのグループがCryoEMやNMRを用いて構造の面から複合体のダイナミックな変化について研究成果を発表していました。私は複合体の主な構成因子であるhnRNPCについて解析していたのですが、それが複合体全体としてどのように機能を果たすのか考察する材料を多く得ることができました。