2023年が始まりました。今年はどのような年になるのでしょう。昨年は社会情勢的には新型コロナウイルス感染症の終わりなき流行、ロシアによるウクライナへの侵略と、なにかと辛い出来事が続きました。一方、明けない夜はない、という言葉どおり、研究者をとりまく環境としては、対面年会の復活、国際的な交流の再開と、明るい話題もありました。より一層の飛躍の年になってほしいと、願うばかりです。

今年の6月には、シンガポールで国際RNA学会が開催されます。2016年に日本RNA学会との共催で京都で開催されて以来、7年ぶりのアジアタイムゾーンでの開催になります。7月に沖縄での日本RNA学会の年会があるし、どちらに参加しようと迷われている方も多いかもしれません。でも、迷うことはありません。両方参加してしまいましょう!沖縄はさすがの観光地。日本各地から直行便が出ていますし、LCCを使えば羽田からでも片道1万円ぐらい。東京ー大阪を新幹線で移動するよりも安いという、この事実。また、シンガポールへの航空運賃は往復でも10万円以下。欧米で開催されるミーティングへの参加に比べれば遥かにお手軽なうえ、学生さんやポスドクであれば国際RNA学会、日本RNA学会双方のtravel awardsもあります。学会に出てばかりいないで実験しろ実験を!!という声もあるかもしれませんが、これぞ!というデータがあるのであればそれを多くの人と共有して議論するのも研究の大切な活動の一つですし、特に論文発表前であれば、投稿前に学会でpotential reviewerとのバトル、いや、実りある対話を繰り広げることで、より良い論文になること間違いなしです。発表するネタがないし今回は見送りかな、という方もおられるかもしれませんが、そんなときこそ学会に行くことで、こんな事がわかったのか、とか、こんな事もわかっていなかったのか、とか、つまるところ自分がまだまだ知らない世界がこんなにもあるのだという驚きに触れることで、明日への活力が得られることも多いのではないかと思います。ぜひ、シンガポール、沖縄セットでの参加をご検討ください。buy 1 get 1 freeとはなりませんが、1 + 1 が2にも3にもなるのが研究コミュニティーというものだと思います。

 話はガラリと変わりますが、RNA学会は比較的歴史の浅い学会ということもあって、構成員の年齢層も若く、学生会員がかなりの割合を占めています。ここで気になるのが、昨今よく言われている、博士課程に進学する学生の激減です。ネットには博士課程で人生オワタみたいな怨嗟の声が満ち溢れ、就職サイトではキワモノ扱いされ、ここまで後ろ向きな情報が溢れれば仕方がないのかなという気もしますが、なんの因果でここまで大学がいじめられなければならないのかと、ちょっぴり悲しい気分になってくることもしばしばです。博士号をとった人が全てアカデミアに進む or 進みたいと思っているわけではないですし、高度技能を持った人材が今後ますます必要とされるであろう激動の時代を迎えるにあたって、こんなに博士人材減っちゃって大丈夫なの?と、この国の行く末が心配になってしまうというのは、余計なお世話なのでしょうか。よく言われるのは、企業サイドから見ると博士人材は融通がきかない、新しいことに適応できない、だから「使えない」、ということですが、そういう輩は博士号をとっていようがいまいが「使えない」わけであって、博士課程の3年間で金の卵が腐ってしまったわけではないでしょう。そもそも、アカデミアに進む人ですら、学位をとった研究テーマに関連したテーマをその後もずっと続けるというのはむしろ稀であり、様々なスキルの身につけ方を叩き込まれた博士人材だからこそ新しい環境に適応することができる、と考えるのは買いかぶりすぎなのでしょうか。シークエンスゲルをエッサエッサと地下のRI室に運び込む、研究というよりは筋トレみたいな仕事に勤しんだ我々世代の学生時代はいざしらず、昨今は研究の戦闘能力を高めるために身につけなければいけないアイテムの数は格段に増加しており、あえて物議を醸しそうな挑戦的な言い方をすれば、「修士卒で研究のスキルが身につくと思ってるの?」です。夏冬のインターンやら、次々と開催される企業研究セミナーやら、SPI対策やらで、2年間の修士課程のど真ん中で1年近く就職情報に踊らされる昨今の就活事情を考えると、なおさらです。

近年、mRNAワクチンの登場や核酸医薬の発展など、RNAの基礎研究がいつかは「役に立つ」ということを実感できるようになりました。より多くの人にRNA研究の素晴らしさ、面白さ、未来への期待感を知ってもらえる、大きなチャンスが到来しているということもできると思います。これまでのRNA学会の年会の参加者は大学や研究所に所属している人が大部分を占めていましたが、前回の京都年会では年会長の齊藤さんのご尽力もあって、これまでにないほど多くの企業の方に参加していただきました。学生さんにとっても、採用不採用という生臭い話とは関係なしに企業の研究者の方と触れ合う、良い機会になったのではないかと思います。昨今の博士過程の人気の凋落の一因はアカデミア関係者が学生の就職にあまりにも無関心であったことにあり、言葉は悪いですが、そこを大手就活サイトに付け入られた、という側面もあるような気がします。日本のRNA研究はこれまで、伝統的な手法を熟知した研究者たちが新しい技術を取り込み、さらに異なるバックグラウンドを持つ研究者を巻き込みながら、オリジナリティーのある研究を世界に向けて発信してきました。その自由な雰囲気の中で、新しい研究分野を切り開く30代の若手研究者もすくすく育ってきています。良い研究をするのが一番、というRNA学会の伝統を活かしつつ、研究を役に立てる、ということに心血を注いでいる企業の方々にも積極的に加わってもらうことで、また新しい世界が見えてくるのではないでしょうか。それがゆくゆく企業、さらには行政府等における博士人材の活躍につながれば、それほど喜ばしいことはありません。