東京大学大学院理学系研究科の西田知訓と申します。この度、RNA学会から推薦していただき、令和3年度若手科学者賞を受賞することができました。これまで、支えていただいた塩見春彦さん、塩見美喜子さん、推薦していただいた先生方、そして書類の手続きなど手助けいただいた庶務幹事の伊藤さんに心より感謝申し上げます。今回、編集幹事の甲斐田さんより、お好きな内容でいいので寄稿してほしいとのことでしたので、受賞いたしました「RNA干渉を引き起こす小分子RNA生合成機構の研究」についてのこれまでの経緯を書かせていただきたいと思います。

私がRNA干渉について出会ったのは、学部4年生の時でした。学部生時代は、島根大学生物資源科学部に所属し、山陰地方では有名な西条柿の育種について研究をしていました。(西条柿は、非常に甘く美味しいので、機会があれば是非食べてみてください。)西条柿は渋柿であるため食するには脱渋が必須でしたが、脱渋処理により数日で果肉が軟化し流通が難しいことが問題でした。そこで、脱渋後軟化しづらい品種の作出を目指し、研究を進めておりました。その最終目標は、RNAi法による軟化関与遺伝子の発現を抑制する品種を成木まで育てるというものでした。私の行なったことは、1)アグロバクテリウムと呼ばれる土壌細菌の植物への遺伝子導入機能を利用し、ヘアピンsiRNAを発現するDNA配列を西条柿の葉に導入させること、2)フラスコ内で葉からカルスを形成させ、苗木まで成長させることでしたが、なかなか難しく順調に進みませんでした。しかし、この研究テーマのおかげで、私は、たかだか21塩基長程度の小分子RNAが遺伝子発現を抑制できるRNA干渉法に興味を持つことが出来ました。今後は、この現象を研究してみたいと考えて、進路として内部進学とともに外の研究室も視野に入れて探そうと考えていました。その時に、当時の指導教員であった中務明先生に、「RNA干渉に興味があるなら、内部進学では無く外の研究室に行くべき」と後押しされたことが、今考えるとよかったと思います。

当時、徳島大学にいらした塩見春彦さんがショウジョウバエのRNAiの分子機能について研究をされておられたので話を聞きに行かせてもらいました。話を聞きに行かせてはもらったのですが、正直緊張していたこともあり学部生の私には内容も難しく、話について行くだけで精一杯で研究内容を理解するのが難しかったような感じだった気がします。しかし、なんか面白そうというのを感じ、徳島大学の修士課程に進学することにしました。これまで植物の培養などしかやってこなく、ウェスタンブロットでさえ一度もやったことがない生化学の素人をよく引き受けていただけたなと思っていました。そして、私が恵まれていたのが、スタッフやテクニシャンの方が多く、本当に実験が上手であったことで、私に手取り足取り丁寧に実験手技や結果の解釈や問題点などを教えていただけたことが今に繋がっていると思います。私の修士課程の時が、まさにpiRNA研究の黎明期であり、「生殖細胞に必要そうだけど、どのように必要であるのか」はよく解っていませんでした。そこで、私に与えられた研究テーマが生殖細胞でPIWIタンパク質の機能解析でした。ショウジョウバエのPIWIタンパク質であるAgo3、Aubergine (Aub)、Piwiは、遺伝学的に生殖細胞に必要であることは判っていましたが、分子機能については不明でした。そこで、まず始めに行なったことはモノクローナル抗体作製方法を学び、PIWIタンパク質に対するモノクローナル抗体を作出することでした。その当時は、何も分からずこの技術を取得しましたが、自分が目的を達成するための抗体を選別することができ、研究を優位に進めることができるため、現在でも役に立っております。その後、私が解析を進めたAubが精巣内でSu(Ste) piRNAと主に結合し、精子形成不全の原因であるStellate遺伝子を切断することで発現を抑制していることを見出し、その結果を含めた最初の論文が掲載された時は、非常に嬉しかったことを覚えています。

私が博士課程2年になる時に、塩見さんが徳島大学から慶應大学へ移転されることになり、私も一緒に慶應大学へ出校という形でついて行きました。この出校ができる期間が2年であったのですが、あまり考えずについて行ったため最終年度の2年目は「論文出なかったら徳島大学に戻らないといけない」と非常に焦っていました。なんとかギリギリで、Tudorの分子機能について論文を出せて学位を取得することができた時は、本当に良かったと安堵しました。ポスドクになってからも、塩見研に在籍させていただけることになり、現在も東京大学の美喜子さんの研究室に在籍させていただいて、一番の古株になってしまいました。研究に関しては、その後にpiRNA機構の新規モデルの提唱やpiRNA生合成因子 (Vasa、Vretなど) の分子機能の解明などを悪戦苦闘しながらも論文として出すことができました。

このpiRNA研究は、世界中に研究者がいて非常に競争が激しい領域でありますが、私がなんとかここまでやってこれたのは塩見さん、美喜子さんを始め、諸先輩や後輩から手助けやアドバイスをしていただけたおかげであると思っています。そして、研究生活は、なかなか思った結果が出ず辛い期間もありますが、それを乗り越え良い結果が出たときの大きな喜びがあるので今でも続けているのかなと思っています。今後も、これまで培ってきた経験を糧に精進して研究を続けて行きたいと思っております。

 
写真 東大塩見研究室。前列中央が美喜子さん、前列右端から二番目が筆者