第9期の評議員になりました黒柳秀人です。2年間よろしくお願いします。
1999年の設立総会に参加して以降しばらく日本RNA学会の活動から離れていたのですが、ここ何年かは年会に参加し、昨期は庶務幹事の指名を受けて学会本部(事務局契約満了後は事務局)業務を担当しました。期せずして、新ロゴマークの制定やウェブサイトのリニューアルという新規事業の実務を担当することとなったのですが、それがあれよあれよという間に発展して、クレジットカードによる会費納入や評議員選挙の電子化など評議員会でたびたび検討されていた構想を一気に実現する学会にとっての一大事業となりました。
今回、ウェブサイトの運営を主とする事務局業務を庶務幹事の相馬亜希子さんはじめ現幹事等の方々に無事引き継ぎましたので、この場を借りて「裏方」の話を会報に残しておきたいと思います。
【開かれた運営】
学会の本部・事務局業務を担当するにあたり柱となったのが会則・細則で、頼りにしたのが過去の運営の記録すなわち総会報告や役員会議事録です。幸いなことに、旧ウェブサイトでも過去のすべての会報のPDF版が一般公開されていて、過去の議事録も自由に辿ることができました。さらに、歴代の幹事の方々が議論の過程まで記録し予算や決算まで会報に残していただいていましたので、いつ何を検討したか、どんな意図で事業に予算が付けられたか、よくわかります。
このような実務的な記録の公開が大きな財産となって今日の学会運営の透明性や安定性につながっているのだと思います。
【新ウェブサイトの構築】
リニューアルするウェブサイトに会員による投票機能を付けようとすると、誰が会員かという情報をサーバーが把握している必要が出てきます。そのためにサーバーに会員管理機能を持たせ、クレジットカードによる決済機能を付ける、会員が記事を投稿できるようにして新着記事情報を自動配信する・・・と構想を練っているうちにどんどん話が大きくなりました(詳しくはこちら)。特に、それまで外部委託の事務局に任せていた会員情報や年度会費支払い記録の管理を学会本部が引き受けるのは、正直なところはじめは気が乗らないものでした。
ちなみに、学会では「個人情報保護方針」を策定して公開しています。実はこれ、意外と多く読まれている隠れた人気コンテンツなのです。
【事務局契約の満了】
ウェブクリエーターの手による構築段階から具体的なウェブサイトの運用方法の検討を始め、評議員会にご協力いただいて細則の変更もしました。ウェブサイトの納品を受けたのが2015年1月末で、そこへコンテンツを移植したり新規に作成したりする作業をチームで始めて3月半ばの公開にこぎつけました。
ウェブサイトの構築とは別に、納品と前後する1月末の段階で、執行部と評議員会にとってとても重大な決断がありました。十年来外部に委託していた事務局契約をその年度末で満了する、という経営判断です。
事務局業務の大部分が新ウェブサイトに組み込まれるため、外部に委託する業務が実質的になくなってしまうことは構想中から予想してはいました。しかし、年度会費納入や入会手続きなどがほぼ自動化された会員管理システムの運用実績が全くない段階で、構築中のサイトの現況、人的・経済的コスト、将来予想されるリスクを評議員会・執行部で議論した末に、事務局を新ウェブサイト中心の運営に完全に一本化する、という果敢な決断が塩見美喜子会長により下されました。
かくして、新ウェブサイトを運営する執行部による「事務局」が2015年度初頭から本格稼働し、会員各位の協力のもと今日まで大きな事故や障害がなく運用されています。
【熊本地震被災地支援】
今年4月に第9期の第1回評議員会が開かれ新執行部が発足した直後に、熊本・大分で大地震が発生しました。2回目の震度7が記録された4月16日(土曜日)からRNA2016参加者への支援が検討され、翌17日(日曜日)にはMikiko Siomi、Tsutomu Suzuki両オーガナイザーにより早期事前参加登録・演題要旨登録締切延長がアナウンスされました。さらに、その週のうちには評議員の谷 時雄さんらからの報告を受けて学会独自予算による震災被災地限定参加経費支援を決定し、募集を開始しました。
このように機動的な意思決定や迅速な募集開始ができたのも、対象地域にいる会員数を執行部がリアルタイムに把握でき、ウェブサイトの記事を作成して公開しメールを配信できる体制があったこと、そしてなにより、支援できるだけの機動的な資金を日本RNA学会が持ち合わせていたおかげであったと思います。
【年度会費の引き上げと事業の充実】
少し古い話ですが、2004年に日本学会事務センター(当時)の破産事故があり、日本RNA学会も預け金を失いました(会報No. 11, pp.1-2, 2005年2月)。その後、国際学会(のちのRNA2011)の開催に向けた財政基盤の強化のために、2008年度から一般会員の年度会費が5,000円から7,500円に引き上げられました(会報No. 17, pp.2-3, 2008年2月)。
RNA2011が成功裡に終わり余裕ができた学会独自資金を活用して、2012年度の仙台での年会から青葉賞が設けられました(会報No.26, p.18, 2012年5月)。さらに、カナダ(2013年)やオーストラリア(2014年)との共催ミーティングに学生会員が派遣されました。2014年度からは、会員が主催する関連学術集会への支援が制度化されました。そして今年、2回目の国際学会であるRNA2016を成功させました。
中村義一会長(当時)から年度会費の大幅な引き上げが提案された2007年度の総会では、唐突な話にみなびっくりして「値上げの根拠や年会の運営方法に関する質問や意見が出され、活発な討論が行われ」ました(会報No. 17, p.3, 2008年2月)。しかし、結果として、事務的経費以外に学会の目的にかなう戦略的な事業の実施が財政基盤の安定により可能となり、新ウェブサイトの構築を含めた今日の会員向け事業の充実につながっていると思います。
【年度会費の引き下げ】
今年(2016年)の総会はRNA2016の会期中に合間を縫って行われるため大きな議題は議論できないと思っていましたが、急転、前例のない提案が直前の役員会で行われ、総会でも承認されました。一般会員の年度会費の引き下げです。
RNA Societyと共催する国際学会のためにと引き上げられた年度会費は終了後に引き下げてもよいのではないか、との議論は以前からありました(会報No. 26, 2012年5月; 第8期評議員会議事録(0), 2014年4月)。しかし、第8期執行部発足時に行った事務局(当時)との折衝(2014年4月)で過去5年間の会員数の推移や決算などの実績値を見ながら議論し、単年度の収支は均衡しているためすぐに年度会費を引き下げできる状況にない、と学会本部(当時)として結論したばかりでした。
今回急に会費の引き下げを議題にできたのは、事務局委託契約の満了により事務的経費が削減されたこと、RNA Societyとの合同Meetingが当面は予定されていないこと、今年度の新規入会者数や既存会員の年度会費支払い状況、銀行口座の残高を執行部がリアルタイムに把握できていること、その結果、事務的経費の削減分を一般会員の年度会費の引き下げに充てられるとその場で即断した塩見美喜子会長や執行部の機動力によるものと思います。
【日本学術会議協力学術研究団体】
日本RNA学会は日本学術会議の協力学術研究団体の称号を付与されています。近年では、協力学術研究団体を対象とした各種表彰の受賞候補者や専門委員会委員の推薦依頼を受ける機会が増えてきました。
候補者の選考や推薦には執行部や評議員会としてはエネルギーを使いますが、会員が学会外で活躍するのを後押しすることが、巡り巡って学会の活力になるものと思います。日本学術振興会育志賞ではこれまでに3人の受賞者を日本RNA学会が推薦しており、規模の割には学会として大きな存在感を出していると思います。
新ウェブサイトでは、各種の学会内公募に会員がオンラインで応募書類を提出できるよう、会員専用メニューに応募フォームを随時作成して会員限定で公開できるようになっています。
ちなみに、学会や年会の情報を掲載したり助成金募集の案内をいただいたりしている学術団体等は「リンク」ページで紹介しています。
【おわりに】
このウェブサイトを構築するにあたり大事にしたのは、個人情報のセキュリティやシステムの頑強さ(OSやブラウザの種類、言語環境、端末の画面の大きさ、CMSのプラットフォームのアップデートなどに影響を受けにくいこと)はもちろんのことですが、幹事等が交替してもすぐに運営できるよう操作が直観的で容易な仕様にする、ということでした。その意味で、執行部が交替するたびに真価が問われる、と思います。今期は年会が国際学会だった上に地震の影響があり、執行部のみなさんにとってはタフな出だしだったと思いますが、このまま順調にいっていただけるようエールを送ります。
私は、事務局を外部委託した運営と執行部による事務局運営の両方を経験しました。当初は、記事や会員向けメールを自分で直接書けるようになることで事務局とのやりとりが減って楽になるかな、という程度に思っていたのですが、執行部が実質的に事務局を運営することによって会員の動向や財務状況をリアルタイムに把握できるようになりました。その結果、ここに見てきたように、情報発信や施策が機動的にできるようになった、というのが一番の大きな変化だと思います。
日本RNA学会は、年に一度の年会の開催以外にも、会員の活動の支援や交流の場の提供を随時行っています。特に、学生会員を海外に派遣する事業は充実していると思います。この学会から恩恵や刺激を受けた若手の方々が5年後、10年後に執行部や評議員として学会の運営に直接携わっていただき、新しいアイデアで新しい事業を展開していただける日が来ることを期待しています。
謝辞
この新ウェブサイトは、評議員だった泊 幸秀さん、編集幹事の北畠 真さん、国際化担当だった岩崎由香さんでチームを作って、毎日20本前後のメールを飛び交わせながらウェブクリエーターとの交渉から稼働まで準備してきました。まさに戦友です。当初の予定どおり2014年度中に新ウェブサイトを稼働させ、今日まで無事に運営できているのはチームワークの賜物だと思いますので、ここに名前を挙げて感謝します。特に泊さんには、ウェアラブル端末まで駆使して豊富な知識や的確な検索に基づくぶれない意見をいつも光速で返していただきました。また、会長の塩見美喜子さんには、学会としての判断・譲歩が必要な場面でいつも即決していただきました。
アーカイブされた日本RNA学会年会専用ウェブサイトのうち第5回から第11回までは東 牧子さん(現日本QA研究会)の手によるもの、英語版ウェブサイトの格調高い文面は第7期国際化担当だったDerek Bartlemさん(現KWS SAAT AG)による旧英語版ウェブサイトに由来するものであることも添えておきます。