こんにちは。熊本大学大学院RNA分子生物学研究室(谷研究室)博士課程2年の長です。この度は、熊本地震被災地支援ということでRNA2016への参加費等をご支援頂き、心より感謝申し上げます。僭越ながら、今回は研究室を代表して、寄稿させて頂きます。
熊本地震
まさか自分が被災するとは、これが正直な感想です。4月14日の21時すぎ、帰宅して夕食を食べ終わった頃、経験したことのない揺れに包まれました。熊本大学が位置する熊本市中央区でも、震度5強の揺れ。揺れが収まって、研究室の状況が心配になり、すぐに研究室に向かいました。数名は実験中でしたが、幸い棚から本等が落下した程度で済み、大きな被害はありませんでした。翌日、研究室の片づけをしました。あって欲しくはないけどなぁとは思いつつも、大きな余震に備えて、高い所に置いていた機器を床に降ろして帰宅しました。これが前震であるとは、つゆ知らず。
そして本震。余震の怖さもあって眠りにつけずにいた最中、前震よりもはるかに強く、長い横揺れが襲ってきました。今度は震度6強。私は咄嗟に近くの小学校に避難しましたが、地鳴りのような轟音が続き、一睡もできませんでした。研究室のことは心配でしたが、もはや行く余裕すらありません。いろんな情報が錯綜し、自分自身も混乱と恐怖に陥っていました。ただ一つ安心したことは、研究室メンバー全員の無事を確認できたことでした。朝になり、ニュースで各地の悲惨な被害状況を目にする中、研究室に向かったメンバーから被害状況を写真で教えてもらいました。本棚の本が散乱した部屋、機械や棚が倒壊した実験室、いつも作業しているクリーンベンチが大破した培養室。写真を見るなり、不安と恐怖と、悲しみが一気に押し寄せてきました。「これから研究室はどうなってしまうのか…。」この時の何とも言えない感情は、今でもはっきりと覚えています。しかし、夜中だったことが救いとなり、誰も研究室におらず、怪我すらありませんでした。実験中だったら…と考えただけでぞっとします。その後、メール連絡にて谷先生より、しばらくの間の研究室休止が告げられました。不安から心を立て直すことで精いっぱいだった自分に相反して、復興に臨む意気込みが文面からも感じられ、研究室を担うボスのあるべき姿を垣間見たような気がしました。
研究室復興
地震から3週間後、ようやく研究室の片づけができ、研究再開の目途が立ちました。いくつかの機器は壊れてしまいましたが、怪我なく生きていられるだけで幸運だったと思います。現在は、他の研究室に機器をお借りするなどして、震災前と変わらない研究を行えています。本研究室においては肝とも言える、分裂酵母変異株ストックや培養細胞ストックに被害が全くなかったことが、復興への第一歩となりました。そんな折、日本RNA学会からRNA2016への参加費等支援のお話を頂きました。このご支援は本当にありがたく、こんな状況でも6月の学会に向けて研究成果をしっかり出すぞ、というモチベーションの向上にも繋がり、震災から立ち直る支えになったと感じています。
RNA2016
ふと気づけば6月も後半になり、被災から研究室復興、そして学会準備と目まぐるしく日々が過ぎていました。この頃には、研究もやっと波に乗り始めました。被災した中でも、普段と変わらずRNA学会年会に参加できたことは、ご支援頂いたおかげだと思っています。なによりも、震災に関係なく、例年通りにディスカッションできる状況まで復活できたことが本当に嬉しかったです。個人的には、カナダのケベックで開催されたRNA2014以来の国際学会参加でした。(こちらも青葉賞副賞で支援して頂き、ありがとうございました。)RNA2014にて2年後の京都開催を知り、日本での開催ならば是非参加したいと思っていたため、実現できて良かったです。学会会場では、顔見知りの先生方や他大学の学生さん、そしてポスター発表を聞きにきて頂いた方からご心配と激励の声を頂き、これからも震災に負けずに、良い研究をしていこうと改めて思いました。
被災後、たくさんの方々からご心配、ご支援を頂きました。また、谷先生の方にも多くのご連絡を頂いたとお聞きしております。本当に感謝の思いでいっぱいです。また、日本RNA学会にも多大なご支援頂きましたこと、研究室一同、深く感謝申し上げます。まだ完全に元通りとはいきませんが、これからも震災前と変わらず、質の高い研究が出来るように研究室一丸となって努力して参ります。熊本各地も復興しつつあります。お時間がありましたら、今しか見られない「復興中の熊本」へ、是非観光にいらしてください。
図1 被災後の研究室(居室)
図2 RNA2016に参加した研究室メンバー
写真左から中島くん(修士1年)、北折くん(修士1年)、谷先生、牟田園さん(博士3年)、筆者。