東京大学大学院農学生命科学研究科 南 篤

東京大学大学院農学生命科学研究科の南 篤と申します。RNaseと休眠リボソームの相互作用について研究しております。この度、日本RNA学会の国際会議参加支援に採択いただき、アメリカ・ニューヨークCold Spring Harbor Laboratory(CSHL)で開催されたTranslational control 2024に参加いたしましたので、ご報告をさせていただきます。

本学会は翻訳・リボソームに関する内容に特化しており、EMBL(ドイツ・ハイデルベルク)で行われる学会とそれぞれ隔年で開催されています。領域の狭い学会ということもあり、すでによく知り合った関係の参加者が多いように感じられます。私は昨年のEMBLに続き2回目の参加で、まだまだ新参者の私には少しハードルが高かったものの、shared roomを選択したこともあり、ルームメイトやその知人との繋がりができたことで、アウェー感が軽減されました。学会は火曜の夜に始まり、土曜の昼まで、間は毎日9時〜22時半ということで一見ハードですが、途中の食事や休憩ではいろんな方と話すチャンスがあり、あっという間の5日間でした。

(写真1)CSHL内のモニュメント。mRNA上をリボソームが動き、奥に見えるタンパク質ができるまでをイメージしています。

今回、幸いにもオーラルのセッションに採択され、初めての海外での口頭発表となりました。それほど緊張するタイプではないと自分では思っていたのですが、広いホールに全員リボソーム研究者という雰囲気に飲まれ、文字通り頭が真っ白になってしまいました。最初に「Ph.D. defenseより緊張するよ」と言ってひと笑い掴めた(?)のがせめてもの意地で、反省の多い発表となってしまいましたが、それでも発表後にも多くの方から質問をいただき、ディスカッションできたことは貴重な経験になりました。私の研究対象であるRNase Iはリボソームプロファイリングにも用いられますが、バクテリアでは効きが悪く、リボソームプロファイリング技術を扱う方にも注目いただけたという手応えを得ました。
同じセッションでは、特にDaniel N. Wilson博士の発表が印象的でした。17種の抗生物質のリボソームへの結合様式を報告した論文(Paternoga et al., NSMB 2023)が記憶に新しいところですが、さらに新たな翻訳阻害様式を示すユニークな抗生物質との構造(Koller et al., bioRxiv 2024)を発表されていました。私の所属研究室では、翻訳に関するテーマのほかに、抗生物質など二次代謝産物の生合成研究が展開されているのですが、それら抗生物質がどのように効くか、Cryo-EMによる構造解析が盛んに行われる今、次々と明らかになり、新たな二次代謝産物の生合成機構とその作用機序の解明を表裏一体で進めることの強力さを感じました。
翻訳・リボソームに特化した本学会ですが、対象や手法はさまざまで、この分野の幅広さ・奥深さを再確認することとなりました。たとえば、タコのリボソームに特異的なrRNAの特徴や、ある種のバクテリアにおけるSD配列の欠失を介したフィードバック制御など、モデル生物からは得られないユニークな知見もありました。手法としては前述のCryo-EMやリボソームプロファイリングのほか、smFRETを中心に1分子イメージングを用いた研究もあり、私も最近取り組んでいたため、ポスターの発表者と苦労話で盛り上がったり、解析手法を伺ったりすることもできました。テーマとしては、真核生物の翻訳開始因子の機能やRQCなどが多かった印象です。
また、我田引水で恐縮ですが、リボソームの休眠に関する発表も複数見られました。特に、Ahmad Jomaa博士の発表では、ミトコンドリア膜上に局在した休眠状態のリボソーム構造をCryo-ETで解析した内容(Gemin et al., bioRxiv 2023)が報告され、内容の新規性に加えてトモグラフィならではのユニークな視覚化表現が目を惹きました。昨年のEMBLでSergey V. Melnikov博士がNature論文の内容(Helena-Bueno et al., Nature 2024)を発表されていましたが、近年新たな休眠機構が次々発見されています。休眠を扱う何人かの方とポスター会場で集まる機会があり、引き続き休眠リボソームの研究の盛り上がりを感じます。
さらに、今回全体を通した傾向として、publishされた論文ではなく、bioRxivに掲載した内容の研究発表が多かったことが挙げられます。サーバ運営元であり、bioRxiv Tシャツが売られているCSHLゆえというわけではありませんが、たとえば先に紹介したWilson博士らの研究やJomaa博士らの研究もbioRxiv上で発表されたもので、かくいう私もbioRxivにアップした内容(Minami et al., bioRxiv 2024)を中心に発表いたしました。中には「プレプリント読んだよ!」と言ってくださる方もおり、プレプリント文化が浸透しつつあるように思います。各研究者のまさしく最新の研究に触れる機会として、こうした学会やプレプリントサーバの存在は重要だと実感しました。

さて、会場となったCSHLはニューヨークのJFK国際空港から1時間半ほどの、自然豊かな土地に位置しています。帰りの飛行機まで少し時間があったので、ニューヨーク中心部に移動しました。1時間ほど電車に乗るだけで、こんなに景色が変わるものかと驚いたものです。少しだけ市内の様子を紹介させていただきます。市内では国際連合本部や911メモリアル・ミュージアムを訪れ、国際秩序が不安定化しつつある中、平和を維持することの意義と難しさを考えるきっかけとなりました。また、私の所属学科では日本酒醸造と馴染みが深いのですが、ブルックリンで日本酒を醸造する酒造にも訪れました。タンクから直汲みのものをいただけたり、日本では珍しいフレーバーのお酒もあったりしますので、興味のある方はぜひお立ち寄りください。

(写真2)国際連合本部総会議場。学生時代の活動で訪れたことがあったのですが、ニュースで見る国際政治の場面を見学できます。

 

末筆ながら、この度は学会参加に際しご支援賜りましたこと、厚く御礼申し上げます。また、今回発表した研究の遂行に際しお世話になった共同研究者の先生方にも、この場を借りて御礼申し上げます。あわせて、今回の学会に同じく参加されていた方々にもお世話になりました。ありがとうございました。今回の経験を糧に、また面白い研究成果を発表できるよう、引き続き研究に邁進する所存です。