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大阪大学大学院生命機能研究科・廣瀬 哲郎

前回は、オリジナルな研究を生み出すための風土について書きました。日本人が自然を眺めた際に見えているものは、欧米の人たちとは少し違うかもしれない、その独特の感性をRNA研究に活かせないだろうか、と常々思っています。こういうオリジナルな研究がまだ萌芽的なステージにあるとき、それを目ざとく見定めてエンカレッジする周囲の風潮も非常に重要だと思います。欧米先導型のわかりやすい強烈な潮流にさらされつつも、それとは一味違う異端要素を育てていくことは簡単ではありません。そのためには、その自身の価値観への信念と誇りを伴った高潔な判断力が求められます。一方で、こうした価値観への過剰な誇り高さは、場合によっては滑稽な俗説を生み出してしまうこともあるようです。今回は、そのことを考えさせられた私のお気に入りのエピソードを2つ紹介します。

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キャリアパス委員の埼玉大・高橋朋子です。RNA学会の先輩、副議長・由香さんと編集幹事・岩川さんに「分子生物学会の前日に、Fukuoka RNA Commons/ISFRCB2024というのがあるよ」と教えていただき参加してきましたので、キャリアパス的観点でレポートします。

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齋藤都暁
情報・システム研究機構国立遺伝学研究所遺伝メカニズム研究系無脊椎動物遺伝研究室教授
総合研究大学院大学先端学術院遺伝学コース教授(併任)

「tRNA屋さんになったの?」と声をかけられることが多くなった。最近出した論文のおかげか私のイメージを少し変えることになったようで嬉しく感じた。2017年4月に遺伝研でラボを立ち上げて7年も経過しており、新しい環境に適応しつつ自分探し(研究探し)を続けた数年だったように思う。この夏に、編集幹事の岩川さんと東京での日本RNA学会年会の際に立ち話していたところ、ラボの立ち上げ報告は結構あるけど、その後どうなったか?というような話はあまり聞かないから一筆どうですか?という話になり、ちょうど良い時期と思ったので、これまでの経過を書いてみたい。

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島根大学医学部微生物 飯笹 久

 microRNA(miRNA)の発見について、今年度ノーベル医学生理学賞は、Victor Ambros博士とGary Ruvkun博士が受賞した。筆者は2005〜2009年に米国ウィスター研究所の西倉和子先生の元に留学し、miRNAと前駆体(pre-miRNA, pri-miRNA)のA-to-I RNA編集について研究を行った。同じラボには大阪大の河原行郎さんがおり、日々色々な話をしていたのを思い出す。西倉ラボには、A-to-I RNA編集について多くのノウハウがあったが、miRNAについては話が違った。この当時は、miRNA産生に必要な遺伝子も一部未解明で、実験ツールやプロトコールの多くを皆で自作していた。初期のサンガーシーケンスで使っていたでかいガラス板を使ってmiRNAの電気泳動をし、何もかもが手探りの状態であった。筆者は留学の10数年前に同じガラス板を使い、S35でシーケンスしていたので、難しいゲルを作るのは慣れていた(横45 cm x 縦70 cmぐらいのPAGEゲルを想像してほしい)。この実験はもうしないと思っていたが、人生、何の経験が役立つかわからない。留学時に、EBウイルスのmiRNAの研究を始めたが、この研究を今も続けている。つまり筆者の研究者生活は、miRNAに大きな恩義(?)があるわけで、こういう解説もゆるされるだろう。

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名古屋大学
鈴木 洋

 2024年のノーベル生理学・医学賞は、「マイクロRNAとその転写後制御における役割」を発見したVictor Ambros博士とGary Ruvkun博士に贈られることになった。大学院生1年(27歳ごろ)から15年以上マイクロRNA(microRNA, miRNA)の研究に関わってきたものとして、心から、両博士、おめでとう、そして、ありがとう!

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程 久美子   Kumiko Ui-Tei
1) 東京科学大学・総合研究院・特任教授
2) 東京大学・大学院理学系研究科・生物科学専攻・特任研究員
 
米マサチューセッツ大学のVictor Ambros博士と米ハーバード大学のGary Ruvkun博士は、線虫のmiRNA発見についての論文を1993年に発表し(1, 2)、それから約30年後の2024年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。miRNAは21-25塩基程度の一本鎖のノンコーディングRNAであり、部分的に相補的な塩基配列をもつmRNAにアンチセンス鎖として対合し、その翻訳を制御する(図1)。しかしながら、このような小さなRNAによる遺伝子発現の制御は、限定的な原理として捉えられ、miRNAに関する次の論文が発表されたのは、7年後の2000年であった(3)。それ以降は、生命科学におけるmiRNAの重要性は明確で、miRNAによる遺伝子制御はヒトを含む多細胞生物にとっても不可欠のメカニズムであることが明確となり、ヒトではすでに2,000種以上ものmiRNAが同定されている。

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東京大学 

渡邊雄一郎

今回のVictor Ambros, Gary Ruvkun両氏のノーベル賞受賞の知らせを聞いて、2000年前後のことを思い出した。線虫でのlin-4に続くlet-7の報告から数年でマウス、ヒトにもmiRNAが存在し、その中には種の違いを超えてlet-7なども含まれることなどが報告された。次に何がくるかと思っていたら、私が扱っていた植物の世界にもmiRNAがあるということになった。植物で初めてのmiRNAと機能との関連が見つかったという報告は2003年9月Natureで発表された。そのmiRNAはmiRJAW (JAWは JAGGED AND WAVY(波打ったという意))いう名で報告された。掲載号の表紙には奇妙な葉の形態を持つシロイヌナズナの写真が登場した。なぜこんな形態になるのかはすぐには理解できなかったことを覚えている。現在このmiRNAはmiR319として登録されている。以後、にわかに植物分野でもmiRNA研究が賑やかになった。

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九州大学・野島研究室博士課程3年の中山千尋と申します。新生RNA解析を用いて、RNAポリメラーゼIIの転写終結制御をテーマに研究しております。この度、RNAJ Travel Fellowship Programに採択いただき、ドイツ・ハイデルベルグで開催されたEMBL Symposium・The complex life of RNAに参加いたしました。この度はその参加報告をさせていただきます。

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RNA学会の皆さま、こんにちは。徳島大学 先端酵素学研究所と東京大学 定量生命科学研究所でお世話になっております、小林穂高です。2023年10月から、若手PIとして研究分野を持たせていただき、RNAの細胞内1分子イメージングを武器に自分色のサイエンスをどんどん進めるぞと意気込んでいます。ラボにご興味ある方いましたら、いつでも気軽にご連絡ください(ラボウェブサイト:https://sites.google.com/view/h-kobayashi-lab)。

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東京大学定量生命科学研究所
泊 幸秀

Dear Victor,

I am beyond thrilled to hear the incredible news—congratulations on winning the Nobel Prize! Your hard work, brilliance, and dedication have truly changed the world, and now the whole world is celebrating you!

これは、2024年10月7日、日本時間の18:42に、私がVictor Ambrosに送ったメールの冒頭である。あとになって本人から聞いたことだが、これは彼が受け取った中で一番最初のノーベル賞お祝いメールだったらしい。

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第13期のキャリアパス担当になりました埼玉大学の高橋朋子と申します。キャリアパスというとアカデミア全体を通して課題が多めの難しいトピックですが、RNA学会に所属されている皆さまが、今後をポジティブに考える一端を担えればと考えております。

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東京大学大学院理学系研究科
教授 塩見 美喜子

帰宅途中、カバンを持つ手が小刻みに振動する。数分おきに数回繰り返された。ついに老化現象到来か、と思ったが、原因はiPhoneだった。履歴には見覚えのない11桁の数字。同じ人からの様である。半年前にも似たようなことがあり、そのときは登録済みの家族からで、雨にぬれた市ヶ谷の横断歩道で自転車ごと転倒し、救急車で運ばれたという知らせだった。そもそも、私のiPhoneには10件しか電話番号が登録されていない。そこから家族とラボの関連者を除くと残りは3件となる。世界中の誰か、マイナス10、が私にiPhoneで連絡をとろうとしても、相手が誰なのか特定できない。特定できないため、一層対応を躊躇う。連続して着信があったので流石に気にはなったが、救急車ver.2みたいなものだろう、家族ではないしな、と放置した。地下鉄の中でもあったし、降りたとしても歩きながらの電話は気が引ける。急用ならメールが入るよね、とも思う。メールアドレスを知らない人なら、また連絡があるまでおいて待つしかないな、とも思う。最寄りのSantokuによったところで、この一連の出来事はすっかり忘れた。

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