7月24日の日本RNA学会総会において、昨年に引き続き、男女共同参画のランチョンセミナーを開催いたしました。昨年のセミナー後のアンケート結果より、「女性に限定しない若手支援や、研究者のキャリアパスやリーダーの育成」についての話題を取り上げてほしい、という意見が多かったことから、今年のランチョンセミナーでは、最近あらたなスタート切った3人の方に、ご自分がこれまで歩んでこられた山あり谷ありの研究人生についてお話ししていただきました。三者三様の楽しい、そしてうなずけるお話しを聞かせていただくことができました。トークの内容を以下に抜粋させていただきます。

まず、最初にお話しいただいたのは、昨年の10月に九大工学部より富山大学理学部化学科の教授に転任されました井川善也さんです。ご自分がPIになられたときのきっかけや視点、アドバイスなどをお話ししてくださいました。

まず、PIに応募するときには、「選ばれる」立場にあるわけですが、PI(特にここでは教授)になれば、(学科等)所属する組織の今後の教員を「選ぶ」立場としての責任が生じます。これが職位の役割として以前と最も異なるところです。また、キャリアとしては、大学なのか、研究所なのかで大きく違います。大学ではやはり教育の経験が考慮されます。大学では指導者・教育者としての視点は重要で、特に研究の「ワクワク感」をいかに学生さんに伝えるか、は非常に大事だと思います。また、独立して研究していくには、研究資金をいかに獲得するかは、やはり重要です。研究面で独立した時期(准教授時代)に「さきがけ」に採択されたことにより、資金に加えて人との交流やつながりができたことは、非常にプラスになりました。また、チームで発表される成果の中で自分の仕事(における主導性)を知ってもらうためには、学会での発表や質問をすることによって、記憶に残ってもらえるようにすることも大事です。可能であれば、研究に複数の学会や学術分野で発表できる学際性を付与できれば(井川さんにおいては化学と生命科学の両方の分野)キャリアアップの際に応募できる選択肢が増すと思います。また、ライフプランとの両立(3人の娘さんのお父さんですが、現在人生初の単身赴任中です)も人生においては重要です。そして、最後のアドバイスは「Y M W」(ってなきゃからない)。これは「さきがけ」領域アドバイザーの先生方がいつもおっしゃっていた言葉です。迷ったらやってみる。チャンスがあったらやり続ける。そうすれば、おのずと道は開けてくると思います。

次にお話しいただいたのは、今年の4月より近畿大学農学部バイオサイエンス学科の教授に就任されました佐渡敬さんです。「オレは人にアドバイスするような人間じゃないから勘弁してよ~」と、ランチョンセミナーを固辞していた佐渡さんですが、留学中の経験と、ポスドクをする際のキーポイントをお話ししてくださいました。

学位取得後半年してからイギリスのケンブリッジ大学で2年間,その後アメリカのマサチューセッツ総合病院で1年半ポスドクをしました。留学中はこれまでの研究人生の中で最も充実した時間でした。アメリカで始めたXistのアンチセンスRNAの研究は、同じような研究の論文をよその研究室に先に出されてしまいました。しかし、そこであきらめずに自分なりの研究を続けて、最終的には論文にすることができました。先を越されても、めげずに自分の成果を形にしていくのが大事だと思います。同じような考えを思いついて、似たような研究をしている人は案外たくさんいるものです。競争の激しい分野で先に論文を出されてしまっても、そこでがっかりするのではなく、自分の成果に基づいて論文をまとめ,続報を出すことが大事です。そうすることによって、その分野の国内外の研究者に自分の存在をみとめてもらえ、自分の分野を作り上げていけると思います。

博士取得後のポスドクをどこでするかは重要です。分野を大きく変えるチャンスです。ビッグラボで大きな仕事を狙うのも悪くはないですが,将来的に続けていきたいテーマがあれば、その分野のビッグショットのラボではなく、分野が多少かぶるけど自分ではやらないというボスのところにアイディアを持って行ってやらせてもらうのがいい。そして、外国に行くのはやっぱりいいと思います。

最後に、研究者はやっぱり大変です。研究にはなかなか終わりがないし、研究をするだけでなくわかりやすく伝えることもしなくちゃいけない、ポジションもとらないといけないし、週末も休みというわけではない。こんな大変な職業だけれど、大人になっても何かにはまって夢中になれる、なんていうのは、他にはない魅力的な職業だと思います。

そして、最後にお話しいただいたのは、この4月より名古屋市立大学薬学部病態生化学分野の講師に就任されました築地仁美さんです。ご主人だけを東京に残し、子供3人と名古屋であらたなスタートを始めた築地さんのお話しは、子育てをしながら研究をしている女性だけでなく、男性研究者にも聞いていただきたいお話しでした。

自分にとっての研究生活の選択は、家庭や育児と両立できるかが大きな判断材料になるため、人生の選択そのものでした。もちろん、人生の岐路は誰にでもありますが、やはり男性よりも女性研究者の方にライフイベントの影響が強くなるのではないかと思います。日本でのポスドク中に1人目を出産し、同時に夫と同じ時期に同じ地域に留学することを前提に留学先を探し、1歳未満の子供を連れて留学しました。アメリカのバージニア大学でのポスドク中に双子を出産し3児の母になりました。この時の生活は非常に苛酷でしたが、周囲の理解と援助があり、とても楽しく充実した生活で、日本とアメリカにおける女性研究者の扱われ方の差をはっきりと感じました。夫の日本でのポストが決まったのに合わせて帰国し、理研でlong non-coding RNA(linc RNA)の研究を始めました。もともと神経発生を研究したかったという思いが導いたのか、linc RNAに結合する分子として同定した蛋白質が、神経難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の原因蛋白質であることがわかってきました。理研・脳科学総合研究センターに移りALSにおけるRNA代謝異常について研究を行い、RNA学会員の方々の励ましとアドバイスのお陰で責任著者として論文を発表することができ、やっとスタート地点に立てた気持ちです。現在はRNA代謝異常に基づく神経難病の病態解明と治療法開発を目指し、奮闘している日々です。学生さんたちには、広い視野を持つこと、専門家の意見を真摯に受け止めることが大事だとメッセージを贈りたいです。

お話しいただいた三人の方々、ありがとうございました。バラエティのあるとても充実した内容だったので、もっとたくさんの方たち、とくに学生さんや若手研究者の方に聞いていただければよかったのにと、残念に思います。来年こそは、もっと多くの若い方々に参加していただけるように、お弁当の配布ができるようにしたいと考えています。

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参加者に記入していただきましたアンケートの結果は以下のとおりです。

① 今後の男女共同参画企画として、どのような話題を取り上げてほしいですか?

(男女問わず)研究者のキャリアパス 9
ワークライフバランス 4
他国での取り組みや経験 3
男性の立場からの男女共同参画や家事育児参加 3

 

② 今後のRNA学会における男女共同参画の取り組みに望むもの。

大会のセミナー企画(ランチョン) 6
女性の座長・評議員の積極的採用 6

その他:大会のセミナー企画として、学生のみのセッションを作ってはどうでしょうか。学生のくくりならば女性も多く発表者になれると思います。

③ その他、さまざまご意見をいただきました。以下に抜粋させていただきます。

  • 今回のように若い人(に限らず)でもPIでなくても、その人の研究人生を語るような企画は昼休みにちょうど良いですし面白いので続けてほしいです。三者三様の話のスタイルもよかったです。(講師・男)
  • おもしろかったです。(助教・男)
  • 講演形式だけでよかったのか…(講師・男)
  • 事前に発表者とオーガナイザーが、時間や内容などについて話し合う方がよいのではないか。せっかくの企画なので、発表者側もオーガナイズ側も聴衆もみんなが得する(意味のある)会になるように、がんばってください。(ポスドク・男)
  • それぞれの方のキャリアパスをきけたことがよかった。(教授・女)
  • お話しは大変興味深かったが、若い人の参加が少なく思えました。また、企業への就職というキャリアも視野に入れた話があってもよいと思います。(企業研究者・男)
  • ランチョンセミナーなので、お弁当を必ず用意すべき。(500円x200人)10万円でずいぶん人集めができます。内容はとても良かったのでもったいないです。(准教授・男)

みなさま、ありがとうございました。今後の男女共同参画企画を含めたRNA学会の運営に役立てていきたいと思います。