京都大学大学院 薬学研究科・二木研究室D3の音成兼光と申します。私は、mRNA上にその存在が多く確認されている、N6-methyladenosine (m6A) の詳細な機能を解明するべく、1塩基単位で特定の遺伝子上に存在するm6Aのメチル化状態を制御するツールの開発、並びにそれらを用いた機能解明を行っております。この度、若手会員を対象としたRNAJ Travel Fellowship に採択され、その渡航支援を利用してRNA Society Annual Meeting 2024 に参加してまいりました。そのご報告をここに記させていただくことで、現地でのRNA愛溢れる雰囲気を皆さんと共有し、今後の参加を検討している若手会員の方々のモチベーションや参考になれば幸いです。


今回のRNA Society 2024 はエディンバラ(スコットランド)で開催されました。街並みは、エディンバラ城を中心に歴史的な建造物や居住地が立ち並ぶ中、それらを改装したパブやカフェ、レストランなど市民が集える新しい場所も多く見られました。新旧入り混じる街並みは、私の拠点である京都を想起させ、治安も良く非常に居心地の良い街でした。今回が初めての国際学会であり、アジア圏を飛び出すのも初めてであった私にとって、町の美しさや治安の良さ、そして出会う人々の優しさは、少なからず不安を取り除いてくれたように思います。
学会は5日間を通して開催され、口頭発表は約140演題、ポスターに至っては700演題近くの発表が行われる非常に大きな学会であり、朝の8時から夜の10時まで口頭発表やポスター発表が開催されるハードスケジュールでした。3日目の朝、前列の席で、” How’s it going?” ” Yeah, I still survive.” と冗談交じり半分本音のあいさつを交わす2人を見て、私も心の中で大きく頷いていました。今回私はポスター発表での参加になり、発表直前は上手く英語でプレゼンできるか、ディスカッションできるかと不安も大きかったですが、多くの方々が発表を聴きに来てくださり、セッション中は不安になる間もないまま必死で2時間駆け抜けたポスター発表となりました。RNA Society はいわば世界中からRNAオタクが集まってくる学会であり、私の発表テーマであるRNA修飾に関わらず、多様なバックグラウンドを持つ方々にも多く訪ねてもらい、お互いの研究についてこちらも楽しく議論することができました。
期間中の昼食・夕食はインクルーシブで学会から提供され、決まった席などは無く会場内で自由に座り、知り合いと話すもよし、初対面の人と交流するもよしといった雰囲気でした。私は単独での参加で知り合いもいなかったため、なかなか席を決めあぐねていましたが、同じ日本人学生が声をかけてくれて、そこから一気に日本人学生が集まり交流が生まれ、三者三様の研究内容をお互い語り合うなど、非常に楽しく過ごせました。また、学会の中日には夕方フリーの日が設けられており、ここで出会ったメンバーで、レストランやパブに行ってスコッチウイスキーを飲みに行くなど、研究以外でも交流を深められました(写真1)。日本の学会では、知り合いや同じ分野の人と話すことがほとんどですが、国際学会という特殊な状況も相まって、偶然の出会いでもより深く繋がることができると感じました。学生だけでなく、日本からいらっしゃった先生方とも交流する機会があり、研究の話からキャリアについての相談まで親身になって聞いてくださりました。この場を借りてお礼申し上げます。

写真1 日本人学生メンバーで集まったパブでの飲み会


一口にRNAといっても各セッションのテーマは多岐にわたり、規模が大きいことも要因としてありますが、国内の学会よりも分野がより細かく分かれている印象でした。私はmRNAの修飾をメインテーマに据えていますが、関連のあるrRNAやtRNAの修飾塩基、新しいmRNA成熟機構や因子の発見についてなど、それぞれのトピックでフロンティアな研究内容に触れることができて非常に楽しく過ごすことができました。また、RNAの高次構造に関するセッションにおいて、「AlphaFold3 (AF3)を用いた検証をしたかどうか」、という質問が多く飛び交い、タンパク質だけではなく核酸も含んだ複合体の高次構造予測を可能にしたAF3の登場は、やはり世界中のRNA研究者の大きな関心を惹いているようです。かくいう私も日常的に利用していますが、今後RNA研究の発展に大きく貢献する予感が肌で感じられました。
期間中は多くの演題を聴くことができましたが、中でも個人的に感銘を受けた演題は、National Academies Sciences Engineering Medicine (NASEM) や、多くのRNA研究者によって、RNA修飾に関する課題やこれからの指針をまとめたレポートについての講演です。内容としては、RNA修飾がいかに重要な立ち位置にあり、それらを完全に理解する必要性、その為に現段階で足りていないものは何か、実現のために必要な技術開発やデータベース構築のロードマップ提言など、あらゆる分野の研究者が議論し、まとめあげられたものでした。そして、その会議の議長であり話者であったBrenda Bass 教授 (University of Utah) からは、RNA研究者全体に向けて”Keep discovering.”というエールが贈られました。私は、RNA研究者同士のグローバルなコミュニティの重要性を感じると同時に、これからの研究は国境の垣根を超えて進んでいくべきなのだと再認識させられました。また、自身の研究内容に取り組み、目の前の課題をどう乗り越えるかに焦点を当てる毎日を過ごしていますが、自身の研究や分野がこの先の5年後、10年後どのように進んでいくのか、繋がっていくのか、研究者としての視座の高さを持って取り組む重要性を再認識させてくれた、素晴らしい講演でした。
講演やポスター発表以外に、若手研究者を対象としたプログラムが多く盛り込まれていたことも、今回参加して良かったと感じる点の一つであり、Mentor Dinner や Junior Scientist Socialなどのイベントが開催されました。Mentor Dinnerでは、Senior scientistをメンターとして数人の若手研究者が囲み、夕食を取りながら進路相談や研究についてのディスカッションなど行いました。ここでは、世界中の博士学生やポスドクの方々がどのような考えを持っているのか意見交換を行い、自身の悩みなどを共有し、アドバイスをもらうことができる場となっていました。また、Junior Scientist Social は簡単なレクリエーションを通して学生同士の新しい交流を生み出すイベントで、私もそこで海外の学生と出会い、つながりを得ることができました。国際学会に参加するメリットの一つとして、世界中の研究者とのつながりを作る事があると思いますが、自分から積極的に英語で声をかける事が難しい人は少なくないと思います。ですが、自然とつながりが生まれるようなイベントがいくつも用意されており、打ち解けやすい雰囲気が作られていたため、今後もRNA Society で若手研究者向けのイベントがあれば、積極的に参加する事をおすすめしたいと思います。そして、海外の学生たちとイベントで話すうちに、こちらからコミュニケーションをとることへの心理的ハードルが下がっていき、そのおかげで、イベント外でも期間中に多くの方々と交流し、有意義で濃密な5日間を過ごすことができました。最終日にはバンケットがスコットランド国立博物館を貸し切って開催され、バクパイプが鳴り響く中会場へと向かいました。バンケットではスコットランドの伝統的な社交ダンスであるケイリー (Ceilidh) を全員で踊り、最高の盛り上がりを見せながら締めくくられました(写真2)。
今回、RNA Society 2024 に参加して多くの事を感じ、学び、たくさんのつながりと共に帰ってくることができました。各分野における最先端のRNA研究や、著名な研究者の講演を聴くことはもちろんのこと、自身の研究がどのように捉えられ、受け入れられるのか、これまでの研究を見つめ直すきっかけにもなったと思います。また、同じ年代の世界中の人たちが、どのように考え、悩み、日々研究に励んでいるのか、国も文化も違えど意外と似たようなものだなと感じつつ、研究に対する熱意の高さに刺激を受けた5日間でした。最後に、このような機会を支援してくださった日本RNA学会の皆様、そしてフェローシップに採択してくださった審査員の皆様、心よりお礼申し上げます。

 

写真2 バンケットの集合写真。掛け声はRNA!