東北大学大学院薬学研究科遺伝子制御薬学分野(稲田研)に所属している李思涵と申します。出芽酵母を用いて、不活性なリボソームRNAを取り込んだ機能不全リボソームの認識・分解機構について研究しております。昨年大阪で開催された第20回日本RNA学会年会にて青葉賞に選出して頂きました。初めてのRNA学会参加で口頭発表の機会を頂き、思いもかけず受賞することができ、心より感謝申し上げます。副賞として、国際学会の旅費援助を頂き、6月11日から16日に開かれたRNA Society年会(RNA2019)に参加することができました。歴史のある大きな学会に参加したいという思いに加え、開催地がポーランドのクラクフであることが非常に魅力的で、中欧に行ってみたいという気持ちで参加を決めました。今回は、RNA2019への参加について報告いたします。
RNA2019 in Krakow
朝出発の飛行機でポーランドに向かい、飛行時間が長かったのですが、時差の関係でクラクフに到着したのが午後の17時頃でした。なんだか半日得した気分で、一緒に学会参加した稲田先生と松木さんと早速会場付近を巡り始めたら、目の前に荘厳なお城(ヴァヴェル城)が見えて、「さすがヨーロッパ!」と感じました (写真1) 。古城近くのお店で、稲田先生にポーランド名物の水餃子「ピエロギ」(写真2) をご馳走になりました。6月は日の入りが遅かったので21時まで外でぶらぶら散歩して、初日は完全に旅行気分になってしまいました。
写真1.会場から見るヴァヴェル城
写真2.ポーランド名物ピエロギ
到着した翌日に学会が始まり、会場があまりにも広く、コンサートホールのように三階席まであって驚きました (写真3) 。修士課程の自分がこんなに大規模な学会に参加できて、本当に嬉しく思います。開会挨拶と特別講演後、ポーランド出身のピアニストSzymon Nehringさんの演奏を拝聴することができました。私自身も小さい頃からピアノを習っており、ピアノコンサートにたまに行っていたのですが、まさか学会でコンサートを聴けるとは思いませんでした。数々の音楽の天才を生み出したポーランドでは、美しい音楽が当たり前のように生活の隅々まで浸透していることを実感し、ピアノ好きな私はかなり感動しました。
写真3.学会会場
最初の二日間は観光と音楽でよくリラックスできて、三日目からようやく一般演題発表が始まりました。これまで論文で一方的知っていた方が多く、非常に完成度の高い素晴らしい研究内容を次々と発表されました。発表者にはRNA分野で著名な先生だけでなく、博士課程の学生の方も予想以上に多かったので、自分も2、3年後に国際学会で口頭発表できるような研究成果を出したいと強く思いました。また、演題数が多いため、発表時間を超過したら強制的に止められるほど、非常にタイトなスケジュールとなっており、「二日間ゆっくり休んでおいて良かった」と思いました。発表を聴く自分も頭いっぱいになってしまい、特に、自分の研究分野から少し離れたスプライシング、RNA合成や修飾などに関連する演題が多数あり、「今まで何がわかったのか」、「新しい着眼点は何か」など、背景と新発見の境目がよくわからないことに気づきました。今後は、特定の分野に局限せず、様々な研究を行っている方と討論できるように勉強、研究していきたいと思います。ポスター会場においても、分野の離れた方と上手く議論することができませんでしたが、ポスターセッションの時間が二時間半と長かったため、予想よりも多くの方がポスターに来てくださりました。ワインを飲みながら研究内容を紹介し、少し休憩したいときに他の方のポスターを見に行ったりして、日本国内の学会と比べて気軽に発表することができ、とても楽しい経験でした。
また、学会中に特に印象に残ったのは、若手研究者(mentee)がPIの方(mentor)に自由に質問でき、「研究」という職業に関してアドバイスを頂ける食事会mentoring lunchでした。Menteeといっても学生が少なく、ポスドクの方がほとんどだったため、自分が会話に入れるかと、非常に不安でしたが、実際参加してみたら予想以上に良い経験ができました。同じテーブルのmenteeの質問や悩みを聞き、「将来こういうことを考えないといけないのか」と、アカデミアで研究を続けたい自分が今後直面すべき問題を知ることができました。幸運なことに、自分のテーブルのmentorの一人、生化学分野で非常に著名なJoan Steitz先生とお話しする機会ができ、博士号取得後の留学の必要性等について貴重な意見を頂きました。
今回の学会参加を通して最も強く感じたのは、自分が行っている研究のおもしろさを一生懸命に伝えようとしている一人一人の研究者の情熱でした。RNAというテーマだけでもこんなに数多くの方が集まり、様々な方向に研究が進んでいることを考えると、世界中の研究者たちは、特定のイベントだけではなく、生命現象全般、さらに自分自身を含めた世界の本質を無限に探索しようとしていることを実感できます。この純粋な探索欲を持ち、限りのある時間内に真理へより一歩近づきたいという気持ちと情熱で頑張って行きたいです。
さいごに
青葉賞受賞にあたり、また国際学会参加にあたり多大なご支援、重ねてお礼申し上げます。拙い文章でしたが、お付き合いありがとうございました。
写真4.ヴァヴェル城観光中の筆者
写真5.クラクフ旧市街