突然の訃報に、私たちは深い悲しみに包まれています。
私は1990年に、卒研生として渡辺研究室に配属されました。それ以来、渡辺先生は私の唯一のメンターとして、公私ともにずっとご指導を賜ってきました。思い起こせば、いつもニコニコされて、「がはは。」と大声で笑い、楽しそうに研究の話をする姿が浮かび上がってきます。おおらかで、茶目っ気があり、懐が深く、情にもろくて、人格的にも本当に素晴らしい先生でした。私も今では研究室を主宰する立場となり、学生の指導などで難しい局面に立たされることがよくありますが、そんな時は、いつも「渡辺先生ならどうするかな?」と想像しながら、対応を考えたりします。本当にいい先生に恵まれたと思っています。私以外にも、同じように思っている門下生たちがたくさんいることでしょう。
渡辺先生は最期まで研究者でした。科研費を取得され「動物ミトコンドリアにおける遺伝暗号成立基盤の解明」について研究をされてました。ここ数年は、東京薬科大の横堀さんと私がサポートする形で、ウニのミトコンドリアtRNAの解析を一緒に行っておりました。私が論文のドラフトを書いて、先生に見ていただく予定でしたが、私の都合で、ずいぶん遅れてしまいました。かなり気をもまれたことと思います。もっとはやく仕上げればよかった、と今ではとても後悔しています。亡くなる二週間前に、病院の方へお見舞いに行った際に、論文のドラフトを持参したのですが、もうすでに読めるような状態ではありませんでした。「本当はお世話になりました。ありがとうございました。」とお礼を言いたかったのですが、それを言ってしまうと本当にお別れになってしまいそうで、とても言えませんでした。少しでも生きる意欲を持ってほしくて、命を繋いでほしくて、辛そうにされている渡辺先生の耳元で論文の大事なところだけを説明させていただきました。とても話せるような状態ではなかったのですが、大きく頷いてくださいました。それが先生と交わした最後の会話になりました。棺に入れさせていただいた論文のドラフトを、きっとどこかで読んでくれていると思います。
渡辺先生は常日頃から「人まねはするな。流行の研究を追いかけるな。」と口癖のように言っておられました。常にオリジナルな発想を大切にし、それを大きな仕事へと育てることの重要さを説いておられました。この考え方はいつしか私を含めて門下生たちの信念となり、その教え子たちにもしっかりと受け継がれています。
渡辺先生は人をほめるのがとても上手な方でした。その人のいいところを見つけ出して、ほめる才能があったんだと思います。「年取るとなかなかほめてもらうことがなくて、、」ともおっしゃってました。なので、最後にほめてあげたいと思います。
渡辺先生、ここまでよくがんばりました。先生は人としても尊敬のできる、すばらしい研究者であり、指導者でした。先生のお導きに感謝しかありません。本当に、どうもありがとうございました。先生の遺志は私たちがしっかりと受け継ぎます。
写真 渡辺研(東大柏キャンパス)の飲み会で